言語野に浸潤する腫瘍

村垣 善浩、平澤 研二、山根 文孝、堀 智勝

東京女子医科大学 脳神経センター 脳神経外科


はじめに

 神経膠腫(グリオーマGlioma)は神経膠細胞(グリア細胞)から発生する腫瘍であり、成人の原発性脳腫瘍のなかで最も頻度の高いものである。しかし脳内から発生するため浸潤性であり、言語野や運動野またはその近傍に発生した場合には治療が困難とされてきた。一方、最近発表された日本脳腫瘍統計によると、神経膠腫は良性であれ悪性であれ、手術摘出度と生命予後とに強い相関があり、手術摘出の重要性が指摘されている。そこで我々は個々の患者で異なる脳機能領域の同定(脳機能マッピング)を行い、安全に腫瘍を全摘出する試みを行ってきた。本稿では言語野近傍に浸潤した腫瘍に対する新しい手術法‐症状を悪化させずに摘出率を向上させる‐について述べる。最初に、慢性硬膜下電極による脳機能マッピングと覚醒下手術を組み合わせた腫瘍摘出術を述べ、術中MRIを利用した機能温存の手術法も紹介する。


脳機能マッピング

 脳内から発生する神経膠腫を摘出する際に最も問題となるのが、重要な脳機能を司る部位と腫瘍との位置関係である。Broadmannが報告したように解剖学的な機能野は同定されているが(図1A)、言語野では個人差が特に大きく(図1B)、また腫瘍が存在した場合に機能野が圧迫によりどの方向に偏位しているかを予想することは困難である。さらに機能野と腫瘍が共存している可能性も否定できない。そこで以下に述べる様々な脳機能マッピングの方法がある。運動野と感覚野を分ける中心溝を同定する体性感覚誘発電位(SEP)、運動野を刺激して筋電図をとる運動誘発電位(MEP)、硬膜下電極刺激によるマッピング、覚醒下手術によるマッピング、機能MRI(Functional MRI:図2)などである。


1A                   1B

1、Broadmannの地図  言語野と呼ばれるものはAre41、42の前部言語野(Broca野:運動性言語中枢)とArea44の後部言語野(Wernicke野:感覚性言語中枢)と島回などがある。またBroca野とWernicke野を結ぶ弓状線維は機能温存のために重要な構造物である。(1A)

 しかし、てんかん患者で調べたマッピングの結果では個人差が激しく、個々の症例で予測することは不可能である(数字は117症例中で言語停止を示した症例数:1B)


2、機能MRI:作業時(タスク時)と休息時のヘモグロビン変化の差分をとり、そのタスクを担当している脳機能領域を同定するMRI撮影。図は手の離握手のタスクによる手の運動野の描出。

 機能MRIは他の方法と違い、非浸襲的であるため特に注目を浴びている。ある一定の動作(タスク:例えば運動野をするには離握手、言語野では語想起をしりとりで施行)を患者が行うとその動作を担当している脳皮質のヘモグロビンが変化することを利用してMRIで撮影するのである。この機能MRIもスクリーニングには優れているが、腫瘍の圧迫がある場合や言語野ではうまく描出されないことがあり、また予後を大きく改善する95%以上の腫瘍摘出を目指す場合には現在の空間解像度では不充分である。そこで、現時点では正確なマッピングのために電極刺激や覚醒下にマッピングが必要で、以下にその方法と実際を述べる。


図3、症例1、31歳男性。言葉が出なくなる痙攣発作にて発症。CTやMRIでBroca野近傍(Area41)に最大径4cmの腫瘍が認められる。

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