痛みと痙縮に対する後根進入部遮断術                         (Dorsal root entry zono-tomy:DREZ-tomy)

 東京女子医科大学脳神経外科
 堀 智勝、 平 孝臣

手術用顕微鏡を用いて後根侵入帯切裁術を最初に導入したのは1972年フランスの
Marc Sindouである1)。筆者らは東京女子医科大学において2000年4月までに、疼
痛に対して13例、痙縮に対して5例に本治療を行うことができた。 本稿では手術法
を中心に説明する。
始めに> 神経引き抜き損傷、幻肢痛などに代表されるdeafferented pain(神経遮断後
疼痛)などに対しては適切な治療が無かった。 しかし、1972年手術用顕微鏡を駆使し
microsurgical にメスで脊髄後根の脊髄に入る部分(脊髄後根侵入帯:dorsal root entry
zone)を切開したうえ、双極電気凝固して破壊する(図1右)ことによって顕著な除
痛効果が得られることがSindouにより証明され、現在までに彼らによって362例の
手術が行われ患者に大きな福音がもたらされている6)。  一方、Dorsal root entry
zone(DREZ)を特殊電極を用い、高周波電気凝固破壊を行う術式が(図1左)Nashold
によって開発され2)、さらにレーザーを用いる術式も報告された。 高周波による
DREZ-tomyでは、頸髄胸髄レベルの治療効果は優れているが、腰髄、仙髄レベルでの
効果はやや劣る。 その理由は腰髄仙髄の後角は頸髄に比べて広く高周波電気凝固によ
る効果が不充分となり易いと報告されている(石島私信)。


図1:DREZ の二つの方法。 左:電極による高周波破壊術、右:microsurgical DREZ
tomy

しかし、microsurgical DREZ-otomyでの成績ではそのような効果の部位差は無く、一
様に80%前後の有効率を認めている5)。 筆者(TH)は1991年に本邦における最初
のMicrosurgical DREZ-otomyの報告をしたが3)、その後1998年本法の創始者であ
るLyon大学脳外科のSindou教授に直接手術法を伝授してもらう機会を得た。 筆者
らは1998年以来、東京女子医科大学で現在までに19例の種々の難治性疼痛・痙縮
に対してmicrosurgical DREZ-otomy(MDTと略す)を行い満足すべき成績を得ている
ので、本治療の手術法について説明する。またDREZ-otomyは疼痛だけでなく、痙縮
にも有効である4)。 
1) microsurgical DREZ-otomy (MDT)
脊髄の後根は末梢では大小の線維が混在し、特に明瞭な線維の局在はみられないがpial
ringの付近では触覚などを伝えるAB線維は内側に、疼痛などを伝えるC線維は外側
に移動して明確な spatial organizationが形成される(図2Sindou 論文より改変, 図
3Carpenter's Human Anatomyより改変)。 従って後根進入帯の外側を切開すると、
温痛覚を伝える細いC線維とやや内側のmyotatic(筋伸張) fiberだけが切断され、
触覚などを伝えるA/B線維などは保存され、痛みと筋の筋伸張線維のみが切断され、
痛みと過伸張反射(痙縮)が解除される。

図2:頸髄後根進入部の外側には痛み;温覚を伝える細いC線維が進入し、触覚などを
伝えるA/B線維は内側に進入するので、進入部の外側30度2mmの病変ではC線維
のみ切開されるので、触覚を保ち痛みにのみ効果が見られる。

図3:後根進入部とLissauer zone(ZL), 後角(Rexed I-IV)の関係を示す。スキーマ(カ
ーペンターのテキストブックより)

図4:脊髄の各レベルでのsきずいの大きさと灰白質の形態と角度を示す(Netterよ
り)

A) 手術適応(表1)
1)余命の長いパンコースト症候群などに代表される癌性痛み、即ち局所性病変による
限局性の痛み。

表1 手術適応 

2)神経原性疼痛
腕神経叢損傷;脊髄病変(痛みが脊髄病変の程度とレベルに一致していることが望まし
い)、痛みが病変の下位で特に仙骨会陰部ではMDTの効果は見られない、特に永続性
の焼け付くような痛みで、全く感覚喪失部に見られる場合は無効のことが多い。従って、
損傷された脊髄部分に関係した痛みであり、空洞ができていたり、くも膜炎があったり
する場所に行われるべきである。最も良い適応は脊髄円錐レベルでの外傷性病変で特に
会陰部や臀部でなく、下肢に痛みが有る場合である。
末梢性神経病変:発作性におきるか、Allodynia(皮膚を刺激すると痛覚過敏が生じる
こと)性の痛み。 カウザルギア型の痛みや血管運動性要素の痛み。
幻肢痛:神経根が引き抜かれているような場合には効果が高い。 切断端の痛みへの効
果は一定しない。 発作性allodynia性の痛みで良い効果が見られる。
ヘルペス後神経痛:罹患した皮膚の表在性の痛みは良好な結果をもたらす。 特に痛み
がallodynia型の場合は特に効果がある。永続性の焼け付くような痛みや深部性の疼痛
にはほとんど効果がない。 このような患者では術後に却って、絞扼性の感覚が追加さ
れる。 高齢者の胸部の本疾患ではMDTの範囲を広げすぎないように注意が肝要であ
る。広げすぎると神経学的症状が悪化する。胸椎ではLissauer Tractは狭く、後角が
小さく深いからである。
B)手術解剖および理論
 背外側溝を縦に切開し、溝に進入する後根の進入部の腹外側部溝内部で連続的に後角
の先端部まで選択されたすべての脊髄レベルを微小電気凝固するのが本手術法である。 
後根進入帯の外側・Lissauer索の内側部を切載し後角の先端部はやや茶灰色がかった
色調を帯びているので手術時顕微鏡で確認できる。 切載部は平均して深さは2−3
mmで、内腹側に頸部では約26-36度の角度がつく。手術によって後根の外側にある侵
害性の線維群とLissauer索の興奮性内側部を選択的に破壊する。 後角の上部も後角
の内部で凝固が行われた場合には破壊される。 この手術では少なくとも部分的に
DREZの抑制性構造を保存することができる。 すなわち後索にあるlemniscal 線維
と後角への反回性側枝とLissauer索の外側にある膠様質の固有脊髄連結性線維を温存
することができる。 本手術法は顕微鏡的後根進入帯切載術(microsurgical
DREZ0tomy (MDT)と呼ばれており、固有感覚の完全な破壊を避け、dearrerentation
(脱入力)現象を避ける手術法である。 DREZ部での操作は各脊髄レベルでの後根の
十分な形態学的・解剖学的知識を必要とする。 後角の正中矢状断面と背外側溝との角
度がDREZ-otomyの切載角度を示す。
Youngらの計測によると6)この角度はC6 では30度、T4では26度、T12では3
7度、L3では36度である。またDREZによる病巣はLissauer索と後角の形・広が
り・深さによっても変化させる(図4)。


c) 手技の実際: 患者さんを腹臥位に固定する。 頭部を低くすると術野の血液
が頭蓋内に混入するので少々、術野より挙げるが、髄液が流出しすぎないように注意す
る。また筋弛緩剤は導入の際に用いるのみで、その後は生理学的モニターリングのため
に用いないようにする。 前根は後根に比べて約3倍刺激閾値が低いことを銘記すべき
である。 
頚椎レベルと腰仙レベルで若干手技が異なるので別々に説明する。
C-1)頚椎レベルでの手術手技
まず、MDTのレベルを決定し、片側MDTか両側かによって異なるが片側の場合には
レベルの上下1椎体の範囲にhemilaminectomyを行う。 硬膜を開け、後根の高位を
電気刺激あるいは誘発電位などを用いて決定する。 C4からT1までの各前根・後根
を各椎間孔レベルで電気刺激し、筋肉支配部位を確認する。 C4は横隔膜、C5は肩
の外転、C6は肘の屈曲、C7は手首の伸展、C8T1は手の筋群の支配を行っている。 
背外側溝を同定し、マイクロメスを用いて正中に対して約30度の角度で後角に向かっ
て約2mmの深さまで切開する(図5左)。 脊髄あるいは運動皮質の電気刺激による
運動電位などでこの切開によって運動電位に変化がないかどうか確認することも必要
である。効果を狙っている、脊髄高位に対してそれぞれ1/2髄節上下に切開を延長した
後、双極電気凝固摂子で切開部を凝固し病巣部位の完成を行う(図5右)。

図5:DREZの手術法。上左では後根侵入部である背外側溝を同定してメスで切開して
いるところ。,右は切開部を双極電気凝固しているところ。

 
腕神経叢の引き抜き損傷による痛み:背外側溝を切開した後に、引き抜き損傷レベルの
後角の内部にて微小電気凝固を脊髄表面から少なくとも3mm以上深く点状に行う。ま
た引き抜き損傷レベルより上下に遺残している神経レベルまでDREZを行う。 本症
では脊髄に般痕などがあり微少解剖の把握がしばしば困難である。 このような場合に
は遺残している後根レベルでの位置を上下に確認し、脛骨神経の刺激による誘発電位が
後索の同定には特に参考になる。 また脊髄の直接電気刺激による誘発電位などの生理
学的なモニターも参考にしてsulcotomyを行う。 溝の同定には根小血管の存在など
や黄色の変色・脊髄表面あるいは内部の微小空洞なども参考になる。 
2)腰仙部の手術法:前述のように腰仙部ではやや広めに凝固巣を作成し、胸髄では心
持狭い凝固巣を作成することがコツである。
頭位は手術野より約20cm低位とし、術中の髄液の漏出を防止する。 S1 などを中
心としてX線でレベルを確認する。 棘突起間に注射針を挿入し、メチレンブルーで皮
下にマークをつける。T11- L1(あるいはL2)の両側あるいは片側の椎弓切除術を行う。 
硬膜とくも膜を縦に切開し終糸を分離する。 ついで後根レベルを電気刺激で同定する。
L1/L2は椎間孔に入る部分で同定する。 L2の刺激で腸腰筋。内転筋群の反応が得ら
れる。 L3-L5の刺激による同定は以下の理由でやや困難である。
A)各々の神経の硬膜鞘からの出入は術野から見えない。B)後根はDREZに切れ目無く
進入している。C)前根は歯状靱帯の前方に隠れて見えない。 D)術中に根の刺激に
よる運動反応は患者が腹臥位であるために観察することが困難である。
L3の刺激では内転筋群・4頭筋の反応を呈する。L4では4頭筋、L5では前脛骨筋
の反応が得られる。 S1の刺激では内外腓腹筋―ひらめ筋群の反応が得られる(アキ
レス腱反射をチエック)。S2-S4の後根刺激では膀胱内圧、肛門内圧計測などや、肛門
括約筋の筋電図(あるいは単純に用指による肛門反射テスト)での反応を検討する。 手
術室では神経生理学的検索は時間がかかるために、重症の膀胱直腸障害を持っている患
者では脊髄円錐部での計測で十分である。 すなわちS1-S2髄節間のランドマークは
円錐部からの尾骨神経の出口部から30mmの上方に存在することが屍体解剖の所見か
ら示されている。
腰仙部ではMDTは円錐部の豊富な血管支配のために困難で危険な場合がある。背外側
溝に沿って後外側脊髄動脈が走行している。 その直径は0.1-0.5mmで後根動脈によ
って栄養されており、Adamkiewicz動脈の下降前枝と尾側で円錐部のLazortesの吻合
枝と吻合している。 この動脈は溝からはずして温存しなければならない。
3) 術中の神経生理学的モニターリング6)
後根シナプス前電位と後角シナプス後電位の記録は脊髄の高位を決定するのに有用で
ある。 この電位は正中神経刺激ではC6-7において最大振幅となり、尺骨神経刺激で
はC8で最大となる。 脛骨神経刺激ではL5-S2で最大となり、陰茎背側神経刺激で
はS2-S4で最大となる(図6)。


図6:頸髄の正中神経刺激による誘発脊髄電気反応を示している。 説明は図中を参照。

脊髄表面のSEP記録は外科病変そのものをモニターするのに有用である(図7)。 

図7:MDT前後の頸髄の正中神経刺激(左)および脛骨神経刺激による腰仙部脊髄の
脊髄電気誘発電位の変化を示している。 N13(median nerve);N24(tibial nerve)が
MDTにより減少している。

1)
腕神経巣引き抜き損傷の場合のように背外側溝が不明瞭な場合には、上向性後索線維の
損傷がないことを確認するには後索電位記録が有用である。 2)MDTの範囲を決定
するには特に良好な感覚機能が外科手術の前に確認されている場合には後角電位の記
録が有用である。 常に反対側脊髄面との比較をしながら、切開面が脊髄正中面に対し
て特に40度以上にならないように注意することが皮質脊髄路などの損傷をきたさな
いための要点である。 図8は症例13の術中脊髄刺激による直接脊髄誘発電位記録で
ある。 DREZが引き抜き損傷により黄色に変性し、やや陥没している。 黄色丸の部
分の刺激では皮質脊髄路刺激によると思われる陰性脊髄電位が中枢部の記録部位で記
録され、黄色部分は皮質脊髄路であることが推定される。 赤丸の刺激ではこの反応は
消失し、緑丸の刺激ではでは後索刺激によると思われる陰性反応が記録部位で見られ、
解剖学的所見より赤丸部分が背外側溝でDREZと思われた。

図8:症例13の術中脊髄刺激による直接脊髄誘発電位記録である。 DREZが引き抜
き損傷により黄色に変性し、やや陥没している。 黄色丸の部分の刺激では皮質脊髄路
刺激によると思われる陰性脊髄電位が中枢部の記録部位で記録され、黄色部分は皮質脊
髄路であることが推定される。 赤丸の刺激ではこの反応は消失し、緑丸の刺激ではで
は後索刺激によると思われる陰性反応が記録部位で見られ、解剖学的所見より赤丸部分
が背外側溝でDREZと思われた。

 現在までに表2に示すように13例の疼痛症例と5例の痙縮例に対して19回のMD
Tを行った。 このうち12例に疼痛の消失をもたらすことができた。 1例(症例1
1)はヘルペス後の神経痛であったが、痛みの性質はallodynia型ではなく、深部の
continuous painであり、症状の悪化はなかったが、痛み不変であり効果が見られなか
った。
他の1例(症例5)では手術後4ヶ月までは著効を示したが、その後左上肢C8−T1部
に温痛覚の消失を見ているが、患者の言うburning continiuous painの再現を訴えた
が、その後完全に消失した。 症例14では脊髄梗塞による両下肢のburning painで
あった。 髄空内バクロフェン注入により著効を示したが、本邦ではシステムの導入が
できていないので、L1-S2の両側MDTを行った、現在しびれ感は残存しているものの
良好な痛みのコントロールが得られている。 本例は髄腔内バクロフェン注入がもっと
も良い治療法と考えられ、本法の早期の導入が望まれる。 筆者がLyon大学に文部省
海外先端医療研修で2週間滞在したときにはSindou教授が集中的に患者を集めて手技
および術前後の患者の診察を供覧してくれたため大変参考になった。 外傷性C8-T1
の root avulsionの35歳主婦;6歳小児の下肢spastic paraplegia; 28歳男性多発性
硬化症による膀胱直腸障害を持つ、両側下肢のspastic diplegiaに対するL3−S3ま
でのMDT、脳幹梗塞による両側下腿、下肢の痙縮に対するL3−S3までのMDTの
4例を経験した。 これらの症例はいずれも顕著な効果を示し、後遺症は認められなか
った。 痙縮の5例についてはいずれも良好な効果が得られている。 現在我々の施設
では痙縮に対しては、神経縮小術(neurotomy)・選択的後根切除術(selective dorsal
rhizotomy)・MDTを症例に応じて選択している。 今後ポンプ埋め込みによる髄腔内
バクロフェン注入法が導入されれば、これらの4つの方法を症例に応じて適宜選択する
ことが可能となるであろう。
D 合併症
 私どもの18症例およびLyon大学での4症例ともにみるべき合併症はなかった。
しかし、手術部位の関係から、触覚などのsensory deficits; motor paresisなどが報告
されている4)。
 最も多いのは手術レベル以下の同側の運動感覚障害である。 その理由は後角が内側
の後索および外側の皮質脊髄路に挟まれているので凝固巣が大きければそれらの一部
を破壊するからである。またdorsolateral sulcusにそって動静脈が多く走っており、
それらの凝固により脊髄の血流障害が起こるからである。高周波による電極凝固法
(Nashold)では50%に、Laserによる凝固でもこれらは0−10%に認められている。 
Sindouらの報告によると、MDTを行った20例中13例は疼痛に対するMDT例であ
った。4例になんらかの後遺症が認められた。1例では軽い下肢遠位部の筋力低下(錐
体路兆候を欠く);軽い可逆性下肢の麻痺2例;脊髄円錐と馬尾の周囲の強い無数のく
も膜癒着を開放した結果と思われる排尿困難であった。 7例では痙縮の治療のために
MDTを行ったがMSの患者1例にcortisone依存性下肢の痙縮の増加を認めた。 恐
らくこれは多発性硬化症の新しい病変のためと思われた。
E MDTの効果
 Sindouによれば5)、前記疼痛の13例では追跡期間は2から33週間で、大まかな
改善は25−100%に認められた。 自発性発作性疼痛の消失は7例中6例に見られ、
allodyniaは6例中5例で、そして連続(永続)性の痛みは12例中4例に消失した。 
そして自発性疼痛の残存は認められていない、またallodyniaが残存したのは1例のみ
であったが、連続性の疼痛は7例で残存した。
癌などの悪性腫瘍による疼痛54例中完全に痛みが消失したり、あるいは麻薬の使用が
不要になった症例の割合は、頚胸髄部では87.5%、腰仙部では 78.5%であっ
た。 また悪性腫瘍などではない、神経性疼痛などの99例では自発性疼痛に対しては
80.6%に、痛覚過敏状態(hyperalgesia)では79.0%に効果があったという。 ま
た高周波あるいはレザーによるDREZ-tomyを行った339例では、手術前の50%以
上の疼痛コントロールが得られた症例は腕神経叢損傷では75%、腰仙部神経叢損傷で
は82%、脊髄損傷例では47%、円錐損傷では83%、切断端痛では50%、ヘルペ
ス後神経痛では60%であった。
 
症例
1)18歳女性(表2症例1)、硬膜外への悪性腫瘍の転移による左肩ー上肢の痛みが
あり、morphinにてコントロールしていたが、徐々に増量。 左C4(1/2),C5,6,7
DREZ-tomyを行った。 術後MSコンチンが不要になった。悪性腫瘍によって死亡す
るまでの半年間痛みの良好なコントロールが得られた(鳥取大学症例)。
2)28 歳男性(症例4)。 外傷に起因すると思われる、Reflex sympathetic dystrophy
による左上肢 C5-Th1の痛み。術後C4,1/2---Th2,1/2までのMDTを行い、allodynia 消
失、痛みは10/1-2、RSD によると考えられる筋萎縮があったが約半年で完全に正常に
なった。この患者では左下肢のRSDもあり left L3-S2のMDTを行ったところ、当初
約60%の効果と言っていたが、徐々に軽快傾向にあり、退院後外国旅行が可能となっ
た。 図9は本手術前後の足の状態の変化を示す。 術前(左)見られた、発赤・腫脹
は著明に減少し、痛みも消失した。 しかし、骨萎縮などのRSDの症状は進行してお
り、この病気の深刻な病態はMDTでも不変である。

3)57歳男性(症例3)。 直腸癌の転移。 両側 L2-S5の MDTを施行した。術後
両下肢痛み消失、左下肢痙縮消失、腹痛、麻痺性イレウスが悪化、肺炎となり、3ヶ月
後に死亡した。
4)38 歳、男性(症例2)。 右syringomyelia によると思われる痛みがあった。右
C5-Th2 のMDTを施行した。術後痛みは2/10、しびれあり、反対側上肢に軽い痛みが
出現した。
5)54 歳男性(症例5)。 右 syringomyelia によると思われる痛みがあった。右
C6-Th4 のMDTを施行した。術後痛み完全消失、TH1にかるいしびれあり。 図10
左上はDREZ中にくも膜嚢胞が示されている。 図10右は空洞部が解放されたところ。
図11はDREZの病変を示すT2WIMRIでくさび型の病変が認められる。

図10:左は本例での脊髄前方に見られるくも膜嚢胞が示されている。 右はTh2 付
近でのsyrinxがopenされたところ。

図11:術後の本例のT2WI MRIで病変がhigh intensityに示されている。

6)59 歳、男性(症例7)。 pancoast型の肺癌による右上肢の痛みあり。 右 C5-Th1
のMDTを行う。痛みはDREZ 領域で消失、術前からの正中神経麻痺がやや悪化?
7)68 歳(症例8)、男性。 腰部の手術後の痛み(failed back)。 left S1-S3 MDT。
痛みは完全消失、しかし反対側の臀部に同様の痛みが出現
8)57 歳、男性(症例9)。 rectum ca による腰仙部の痛み。bilateral L2-S5 MDT。
痛みは2/10となる。両下肢のしびれはあるが、歩行は障害されていない
9)59 歳、男性(症例6)。 rectum ca による腰仙部の痛み。bilateral L1-S5 MDT。
下肢の痛みは消失、会陰部は2/10、右下肢深部知覚障害出現。 この症例での術前、
術後の患者さんの痛みの状態を奥さんが書いたchartを図12(術前、術後)に示す。
その後患者を送って下さった外科へ移ったが、リハビリを行い、歩行が可能となった。
以上が疼痛の患者である。

結論>
 手術適応を厳密に行い、解剖学的検討を屍体などで十分検討し、生理学的モニターを
併用することにより、MDTは皮質脊髄路や後索の障害をほとんど起こさずに施行する
ことができる。 手術部位の感覚の一部(後索に関係した触覚など)を残すことができ
るが、このことは痛みや痙縮に陥っている部位のある種の機能を保っている患者にとっ
て大変重要である。 手術部位の機能の維持は高周波やレーザー、超音波などによって
行われるDREZ-tomyに比べてmicrosurgical な方法が優れているといえる。
我々の経験はまだ少ないが上記のような事実を踏まえた上で慎重に適応を選択するこ
とによって著明な疼痛;痙縮の消失あるいは軽減がもたらされることは明らかである。

図1:DREZ の二つの方法。 左:電極による高周波破壊術、右:microsurgical DREZ
tomy
図2:頸髄後根進入部の外側には痛み;温覚を伝える細いC線維が進入し、触覚などを
伝えるA/B線維は内側に進入するので、進入部の外側30度2mmの病変ではC線維
のみ切開されるので、触覚を保ち痛みにのみ効果が見られる。
図3:後根進入部とLissauer zone(ZL), 後角(Rexed I-IV)の関係を示す。スキーマ(カ
ーペンターのテキストブックより)
図4:脊髄の各レベルでのsきずいの大きさと灰白質の形態と角度を示す(Netterよ
り)
図5:DREZの手術法。上左では後根侵入部である背外側溝を同定してメスで切開して
いるところ。,右は切開部を双極電気凝固しているところ。
図6:頸髄の正中神経刺激による誘発脊髄電気反応を示している。 説明は図中を参照。
図7:MDT前後の頸髄の正中神経刺激(左)および脛骨神経刺激による腰仙部脊髄の
脊髄電気誘発電位の変化を示している。 N13(median nerve);N24(tibial nerve)が
MDTにより減少している。
図8:症例13の術中脊髄刺激による直接脊髄誘発電位記録である。 DREZが引き抜
き損傷により黄色に変性し、やや陥没している。 黄色丸の部分の刺激では皮質脊髄路
刺激によると思われる陰性脊髄電位が中枢部の記録部位で記録され、黄色部分は皮質脊
髄路であることが推定される。 赤丸の刺激ではこの反応は消失し、緑丸の刺激ではで
は後索刺激によると思われる陰性反応が記録部位で見られ、解剖学的所見より赤丸部分
が背外側溝でDREZと思われた。
図9:本手術前後の足の状態の変化を示す。 術前(左)見られた、発赤・腫脹は著明
に減少し、痛みも消失した。
図10:左は本例での脊髄前方に見られるくも膜嚢胞が示されている。 右はTh2 付
近でのsyrinxがopenされたところ。
図11:術後の本例のT2WI MRIで病変がhigh intensityに示されている。
図12:症例6の術前(左)後(右)の痛みの変化を示したチャート。

文献
1. Sindou M, Fischer G, Goutelle A, Schott B, Mansuy L: La radicellotomie
posterieure selective dans le traitement des Spasticites. Rev Neurol 130:201-215,
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2. Nashold BS: Clinical applications of the DREZ operation:General intorduction.
in Nashold B, Pearlstein R (ed): The DREZ operation, Illinois, AANS Publications
Committee, 1996, pp47-72.Gros C: Spasticity, clinical classification and surgical
treatment, in Krayenbuhl H (ed): Advances and Technical Standards in
Neurosurgery, Vienna, Springer-Verlag, 1979, pp55-97.
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patients with neurogenic pain or spasticity. J Neurosurg 74:916-932, 1991
5. Sindou M,Jeanmonod D:Microsurgical DREZ-otomy for the treatment of
spasticity and pain in the lower limbs.
Neurosurgery 24:655-670, 1989.
6. Sindou M:Dorsal root entry zone lesions. In Pain Surgery (Kim J, Burchiel ed)
Georg Thieme Publisher, 2000 ( in press)





痙縮に対する末梢神経縮小術と後根進入部遮断術

神経縮小術 (Neurotomy for intractable spasticity)
Neurotomyを直訳すると神経切除術となるが、実際には痙縮に陥った筋肉を支配す
る神経の太さを20−40%程度に縮小させることにより、痙縮を治療する手技が
Neurotomyである。そこで筆者らはこのneurotomyを神経縮小術と呼称することにし
ている。
本手術法の歴史は古く、1887年Lorenzによって初めて閉鎖神経の縮小術が臀部
(Hip)の内転性痙縮に対して行なわれた。1912年にはStophelが脛骨神経の縮小
術を痙縮性足にまた正中神経の縮小術を前腕の痙縮性回内に対して行った1)。 
まず神経縮小術の基本は筋肉支配の最も末梢で神経繊維束を解剖学的に同定しその
部分で手術用顕微鏡を用いて縮小することである。
神経縮小術は定量的に選択的である必要がある。 すなわち運動機能を損なうことなく
あるいは筋萎縮をもたらすことなく過剰な痙縮を抑制することが必要である。
このためには神経の1/5の太さは保たれなくてはならない。現在我々はspasticityに陥
った筋肉を支配している神経を顕微鏡下に誘発筋電図のM波の振幅を指標にして、縮
小の程度を定量化する試みを行っており、図1、図2のように縮小術
(hyponeurotization)を段階的に行っている。

アルコールやフェノールを用いた化学的な神経破壊術や経皮的高周波破壊術なども用
いられているが、手術用顕微鏡を用いた選択的な神経縮小術が最も合理的で有効な治療
法であることは明らかである。もし痙縮が肢全体を犯して異常な肢位を示しているよう
な場合には後根の切除術(Rhizotomy)あるいはMDTのほうが有用な治療法となる2,3)。
もちろんrhizotomyやMDTの後に限局性の痙縮が残存している場合にはこの神経縮
小術が追加される場合もある。
神経縮小術
 正確な術前の痙縮要素の決定と正確な術中の神経枝の同定が必要になる。また手術に
際しては双極電気刺激装置と手術用顕微鏡テクニックが最大の武器となる。 また神経
の縮小の程度がやはり重要である。 過剰な病変作製は運動を生じまた不充分な病変作
製は不充分な効果しかもたらさない。 また、手術にあたっては感覚神経(例えば、脛
骨神経縮小術でのsural nerve腓骨神経)の保存は重要である。
 神経縮小術には次のようなものがあるので症例の状態に応じて適宜術式を選択する
必要がある4)。
1)手首や指の痙縮に対する正中神経(図3)や尺骨神経縮小術
2)痙縮性屈曲肘に対する筋皮神経縮小術(図4)

3)臀部屈曲筋群の痙縮に対する大腿神経縮小術
臀部の屈筋群には大腿直筋;腸腰筋;縫工筋;大腿筋膜張筋などがあるが前3者は大腿神経支配である。
臀部の屈曲伸展を膝を屈曲した状態と伸展した状態で比較してなんの変化も無い時には腸腰筋が痙縮に関与し
ているが、膝を屈曲したときに臀部の屈曲が増加するならば大腿直筋が痙縮に関与して
いるので骨盤外の大腿神経縮小術が適応となる(Thomas sign)
4)膝の屈曲痙縮に対する坐骨神経のハムストリング筋群枝の神経縮小術
ハムストリング筋は半腱様筋;半膜様筋;大腿2頭筋から成り立っており膝の屈曲
痙縮に関与している。大腿上部にある坐骨神経束の内側部分にハムストリング筋群への
枝があるのでこのレベルで神経縮小術が行なわれる。
5)臀部内転痙縮に対する閉鎖神経縮小術
  外閉鎖筋は臀部の安定に関与している。 短内転筋と恥骨筋(pectineus)は臀部の
外方への回転に関与している。子供では閉鎖神経の前枝の神経縮小術のみで臀部の内転
痙縮の神経縮小術としては十分である。しかし臀部が亜脱臼の恐れがあるときには後枝
の縮小術も必要となる。この場合には長内転筋、大腿薄筋(gracilis)、内転筋の腱切術も
追加される可能性がある。
6)選択的脛骨神経縮小術
馬足・内反馬足(equinus)や足間代はヒラメ筋;内外腓腹筋に依存している。
膝を屈曲したときに馬足・内反馬足(equinus)や足間代が減少するなら腓腹筋の痙
縮が主要な原因である。なぜなら、屈曲によって腓腹筋の緊張は減少するからである。
もしこのテストが陰性なら、痙縮の主要な要素はヒラメ筋にあるとみなされる。
内反(varus)は後脛骨神経に依存している。時に腓骨神経に支配されている前脛骨筋が、内反が足の前部を犯して
いるときには関与していることがある。
足指の緊張性屈曲は長母指屈筋や長指屈筋などに依存している。この場合にtoe
flexionを直す場合にはヒラメ筋のarch(アーチ)の部分で脛骨神経幹の神経外膜を開
き、責任運動枝の分離を行い縮小術を行う(図5)。
この手術で馬足(equinus)は85%、内反89%、指の屈曲74%、間代67%、自発運動の改善は8
7%、不変13%、完全な痙縮の過剰の抑制と足底の正常なポジションが82%に得ら
れている。 そして平均2年の追跡で明らかな再発は起きていない

8)深腓骨神経の縮小術
(痙縮性伸展性拇指)
バビンスキー徴候の悪化
例である永続性拇指の過伸展は靴をはくときや歩行に障害をもたらすので、この肢位に
関与する長拇指伸筋と短指伸筋の内部部分であり、この筋群を支配している深腓骨神経
(下肢の中間部から足の背側にかけて存在する)の縮小術を行う。
次に選択的脛骨神経縮小術の手術手技について説明する。
参考論文:痙縮足の治療としての脛骨神経の選択的神経切除術
  Sindou
M, Mertens P: Neurosurgery 23:738-744, 1988
● 痙直が筋肉や腱から来るものか、関節拘縮によるものかを全麻下に確認する。
● 全麻でなくても長時間持続性の局麻剤(bupivacaine)などでも確認でき、この場合
患者自身も手術をしたらどのような感じになるかを体験できるし、術者も確認できるの
で利点が多い。
● Equinus(尖足)や足首の間代(clonus)はヒラメ筋(soleus)神経の切除;あるいはさ
らに内外の腓腹筋神経の切除が必要となる。
● 尖足とclonusが膝を曲げると明らかに減少するなら、この腓腹筋が異常な姿位の重
要な原因であることを示す。
● もしこのテストが陰性なら痙直性はヒラメ筋から来ていると推定される。
● Varus(内反)は本質的には後脛骨筋による。腓骨神経(peroneal nerve)が支配して
いるTibialis anterior muscleが足の前方のvarus(内反)に寄与しているかどうかは
tibial nerveの局麻をすることによって判別できる。
●足先のtonic flexionはflexor hallucis拇指屈筋とflexor digitorum communis総指
屈筋に依存している。その場合にはヒラメ筋のarch levelでのtibial nerve trunkを支
配する motor fascicleを切断しなければならない。
◎ 外科テクニック
●腹臥位
●膝を10−15度曲げてハムストリングと腓腹筋の緊張を除去する。
●全麻;筋弛緩剤無し(脛骨神経を刺激して運動反応を見るため)
●正中に垂直に膝窩横線より7cm下まで皮切。 腓腹筋神経の枝を同定するためには
3cm高位から始めることもある。 soleus archの部分で脛骨神経の遠位部の中の屈
筋支配神経束を見るためには3cmさらに下方に皮切を伸ばすこともある。 腓腹神経
(sural nerve)を傷つけないように注意が必要。この神経は二つの腓腹筋群間の腱膜下腔
(subaponeurotic space)に存在する。
●上膝窩部領域の脂肪の中に神経の近位部を見つけdissectionを開始する。 以前にア
ルコールブロックをしていた場合にはこの部位が線維性に癒着している。 マイクロ下
に脛骨神経枝を遠位部へと剥離して行く。 双極電気刺激で神経を同定し、痙縮に関与
していると思われる筋を支配する神経を異なった色のテープでマークして行く。 そし
て1/2−4/5の神経が術前の計画に従って切除されて行く。 双極電気メスで切除
近位端は神経腫が形成されないように鋭い電気凝固摂子で凝固する。
●脛骨神経遠位端の中の屈筋支配神経束の剥離が最も困難である。
●soleus archのレベルで神経束のepineuriumを開けた後fasciculusを丁寧に露出す
る。
●弱い電気刺激のみが運動枝と感覚枝を正確に区別する。
●切除部分の近位端で定常電流で閾値よりやや強い電気刺激を行い、各外科切除病変の
効果を確認する。もし、残りの線維の刺激がまだ強い筋収縮を起こしたら神経の切除が
まだ足りないことを示す。 すべての予定切除が終わったら近位の刺激を行い、全ての
有害な痙縮が消失していることを確認する(図6は右tibial neurotomyの術中写真。
左上は右足を露出し神経の刺激に応じた足の動きを直接モニター可能なようにしてあ
る(ビデオ画像にpicture in pictureでsuperimposeしてある)。右下は手術前の皮切
(bayonnet型)と罹患神経の走行予想図。 右上は患者の足と体の位置。右下は神経
縮小を行い縮小部と元の太さを矢印で囲み比較提示している。
●閉創
●足にantivaricose vein stockingをかぶせ挙上してvenous returnを促進する。
●抗凝固剤治療を10日間行う。
●患者には翌日から歩行するように命じ、kinesitherapyは術後2日目から開始する。

Neuromyを行った現在までの症例一覧

症例番号、年齢、性(M/F)、痙縮状態、原因疾患、neurotomyを行った神経の順に示す。
1 10 M equinus Cerebral Palsy 右tibial nerve
2 29 F equinus AVM術後 右tibial nerve
3 12 F equinovarus Cerebral palsy左 tibial nerve
4 63 M equinus CVD左 tibial nerve
5 29 F equinovarus CVD 左tibial nerve
6 28 F equinovarus Cerebral Palsy 右tibial nerve
7 8 M equinovarus Cerebral Palsy 右tibial nerve
8 26 M wrist, finger flexiont CVD 右hand, median nerve
9 67 M elbow flexion CVD 左musculocutaneous nerve
10 4 F equinovarus Cerebral Palsy 右tibial nerve
11 46 F equinovarus, CVD 右tibial nerve (toe right)
12 29 M equinovarus Cerebral Palsy 右tibial nerve
13 4 F equinovarus Cerebral Palsy 左tibial nerve
CVD:cerebrovascular disease, AVM:arteriovenous malformation,


参考までに症例2の術後患者さんの母から筆者への手紙の要約を示す。
”つい最近まで尖足がひどく、家の中をゆっくりと歩いていました。補装具をつけて
も思うように踵が着かず、特に上り坂は辛そうでした。 最近では本人には言いません
でしたが症状がひどくなったような気がして悩んでおりました。手術後自宅から駅まで
歩くとき一緒に歩いていて自然に近い歩き方で早く歩けて、障害者である事を忘れさせ
てくれます。いつも風呂上りは最悪でよたよたしていましたが、今日は普通に歩いてい
ます。電車を降りるときにも一駅前には準備が必要でしたが今ではとまってからスット
降りれます。 痛みはありますが、うれしさの方が大きそうです。

◎痙縮への後根進入部遮断術(MDT)の適応
1973年以来痙縮にも
この治療が行われてきている6)。MDTによって単シナプス性筋伸張反射あるいは多シ
ナプス性侵害反射の求心路を遮断することにより、後角において興奮性の入力の体制感
覚伝達の大部分を断ってしまうためである。
SindouらはC5-Th1の頸髄レベルで上肢に対するMDTを42例に施行、腰仙部(L2-S2
時にS4まで)に対して重傷対麻痺の患者で93例に行っている。 最低2年の追跡で
(2−20年、平均8年)、緊張の減少がもたらされ、受動運動が容易になり、過緊張
によってマスクされていた自発運動がでてくる様な効果は症例の82%に見られた。 
1.片麻痺の痙縮性上肢
肩、肘などの近位筋の痙縮
はMDTによって良くなるが、手首や指での痙縮はあ まり期
待できない。
2.下肢では重傷の機能障
害を持った対麻痺の患者(歩行不能で車椅子でもうま く落ち着けず、ベ
ッドで褥創などで苦しんでいる人に適応は絞るべきである。
◎神経原性痙縮性膀胱
両側のS2−S3のMDTで排尿筋が非可逆性性に硬縮していない場合、攣縮性膀胱の
容量を増加させ、失禁を抑制する。 患者が随意性排尿controlができず、正常の性機
能が無いような患者ではMDTの適応がある。
痙縮に対するMDTでは、自発性あるいは侵害刺激によって誘発される痙縮は減少する
か抑制されている。前記7例中手術後の大雑把な改善は50−80%であった。 この
中には膀胱痙縮に対する2例の手術例も含まれている。 また2例では痙縮の改善に伴
い自発性運動の改善がもたらされている。

痙縮の患者についてDREZを行った最近2例の経験を示す。
1) 35 歳、男性。 サーフィンで溺死寸前となり、低酸素脳症後の両下肢の痙縮の患
者。術前痙縮が著明で両側の L1-S1 MDTを行う。術後痙縮著明改善、排尿も改善し術
前の排尿時時間がかかっていたのが楽に排尿できるようになった。
2)16歳、男児。脳性麻痺によるbilateral spastic paraplegiaで歩行が不能であるば
かりでなく、車椅子にも座っていられない(ずり落ちてしまう)。 bilateral L1-S1 の
MDTを行った。痙縮著明改善し、車椅子に長時間座っている事が可能となる。現在リ
ハビリテーション中。


以上のように四肢の緊張のバランスが崩れて痙縮が過剰になっている状態で、関連の筋
群が単一の末梢神経の支配下にある場合には、末梢レベルでの神経縮小術が良い適応と
なる。 神経縮小術を行えば、共同筋と拮抗筋のバランスの再調整を行うことができる。 
そのことによって異常な関節の肢位の改善がもたらされ、残されたあるいは隠された自
発運動の改善がもたらされる。
 そうすることによって患者さんのQOL (quality of life)が改善されるばかりでなく、
社会性、自発性、積極性が発現される。
このことは脳性麻痺あるいは中枢神経の障害による手術の痙縮を改善することがどれ
ほど個人個人の患者さんにとって大事なことであるかが証明される。
我々脳神経外科は緻密な顕微鏡手術を日常行っており、痙縮を筋肉のレベルの疾患と捉
えるのではなく、神経の過剰な興奮によって痙縮が惹起されると理解し、それを手術用
顕微鏡と神経刺激装置などによる機能モニターを行いながら精細な治療が可能である
ことをみなさんに是非知ってもらい、一日も早く苦しんでいる患者さんや子供たちに福
音をもたらしたいと思っている。


文献
1. Gros C: Spasticity, clinical classification and surgical treatment, in Krayenbuhl
H (ed): Advances and Technical Standards in Neurosurgery, Vienna,
Springer-Verlag, 1979, pp55-97.
2. .Lang FF, Deletis V, Cohen HW, Velasquez L, Abbott R: Inclusion of the S2
dorsal rootlets in functional posterior rhizotomy for spasticity in children with
cerebral palsy. Neurosurgery 34:847-853, 1994
3. .Sindou M, Fischer G, Goutelle A, Schott B, Mansuy L: La radicellotomie
posterieure selective dans le traitment des spasticites. Rev Neurol 130:201-215,
1974.
4. Mertens P* Les Neurotomies Peripehriques dans le Traitement des Troubles
Spastiques des Membres.
These Medecine, Lyon, 1987, No.471
5. Sindou M, Mertens P: Selective neurotomy of the tibial nerve for treatment of
the spastic foot. Neurosurgery, 23:738-744, 1988.
6. Sindou M,Jeanmonod D:Microsurgical DREZ-otomy for the treatment of
spasticity and pain in the lower limbs.
Neurosurgery 24:655-670, 1989..


図1:hyponeurotizationを示すschema。痙縮に陥っている神経の筋電図上のM波の
振幅を指標にして神経縮小術を行う。
図2:図1に示すようなhyponeurotizationをM波の振幅を参考にしてtailoredに行
う。
図3:手首や手指の痙縮に対するmedian nerveの神経縮小術の皮切と実際の手術時の
micro写真。
図4:肘の痙性屈曲に対する筋皮神経縮小術の皮切と術中写真のschema
図5:膝窩部のtibial neurotomy時の展開図。MG:medial gastrocnemius muscle,
LG:lateral gastrocnemius mascle,S:soleus arcade, 内外腓腹神経、ヒラメ筋神経、後
脛形骨神経などを同定し縮小して行く。
図6:右後脛形骨神経縮小術の術中写真。左上はsoleus nerve, posterior tibial nerve,
medial gastrocnemius nerve(MGC), lateral gastrocnemius nerve(LGC)などを同定し、
縮小しはじめるところで、ビデオ画像にpicture in picture で足の動きが見えるように
してある。 左下は術前の皮切と予想される神経の走行図。 右上は足と体のポジショ
ン。右下はひらめ筋神経を縮小した部分と元の太さを矢印で示して比較しているところ。

参考創風社の「障害者医療」のページ。Neurotomy .etc.の術前、術後の確認が出来ます。