外傷性てんかん

東京女子医科大学脳神経センター脳神経外科

 堀 智勝


要約>
外傷性てんかんtraumatic epilepsyは重要なテーマである。 日本では年間約5-15万人が外傷性てんかんを発生するという報告がある。また交通事故・労災事故に関連するのでmedicolegalにも重要であり、またてんかん発生機序の基礎研究のテーマとしても重要である。外傷性てんかんの基礎的研究としては、McKinneyらがてんかん性海馬スライス標本においてCA3領域の錘体細胞からの発芽がてんかん性過興奮性発射の原因として考えられることを報告した。 また一般に脱抑制がてんかん性過興奮性を説明するものと考えられていたが、GABAなどの伝達物質はむしろてんかん原性焦点において増加傾向にあることが証明されており、脱抑制はてんかん機序を説明するものではないらしいことが最近報告されている。 また外傷性てんかんの発生機序に鉄イオンが関与していることが報告されているが、メラトニンがperoxidationを抑制し鉄イオン性のてんかん発射を抑制することが報告された。 臨床研究の最近の報告ではいわゆるlateposttraumatic epilepsyに対しての予防的投薬はてんかんの発生率を抑制するものではない。また、外傷後1週間以内に起こるearly epilepsyの予防のために外傷後早期にphenytoinを投与しても、予防効果が認められないことがYoungらによって報告された。 しかしTemkinらによればphenytoinは1週間以内のearly epilepsyを起した患者に対してのみ有効であることをdouble blind placebo controlled studyで証明した(1990)。 従って1週間以内のearly epilepsyを起した患者に対してphenytoin、(phenytoinが無効の場合にはphenobarbitalの静注)などの抗痙攣剤の静脈内投与を行うことが望ましい。 特にphenytoinを静脈内に投与して血中濃度を25-35μg/mlに保ち、early epilepsyに伴う再発発作と発作に伴う副作用を防止すべきである。その後6ヶ月phenytoinを投与し15-20μg/mlに血中濃度を保ち、脳波がてんかん性でない場合には中止する。Late posttraumatic epilepsyが起こった時には最終発作後1年間薬剤を続け、脳波所見と何回Lateposttraumatic epilepsyが起こったかによって薬剤の投与をどうするか判断する。一方杉山らはearlyepilepsy を起すリスクの高い症例ではphenytoinの予防投与をすべきであると主張している。 Youngと杉山の方針でoutcomeに変わりがないかどうかを今後明らかにすればphenytoinの投与法が明らかになるであろう。
Valpro酸などの投与が手術後や外傷性てんかん患者に使用されるが、本質的に全般性てんかんに対する薬剤であるValpro酸を第一選択薬として術後てんかん、あるいは外傷性てんかん患者に使用することは好ましくない。

はじめに>

本稿では外傷性てんかんについてのReviewを行うが、脳神経外科手術後の術後痙攣についても言及する。

I 外傷・術後けいれん

脳損傷が起これば後遺症状としててんかんが発生する。ある意味では脳手術後のてんかんは外傷性てんかんともいえる。 そこで本稿では脳手術後のてんかんとその管理について、紹介し、外傷性てんかんの最近のreviewを臨床研究・基礎研究について紹介する。

脳手術後のてんかん
脳手術後には表1に示す頻度で痙攣発作ないしてんかん発作が発生している。 発生頻度は抗てんかん薬投与の有無、対象疾患、追跡期間などの相違から3~39%とばらつきがみられる。脳動脈瘤の術後では約1割の症例にてんかんが発生している。 Foyら6)によるとテント上手術877例中14%に発作が生じており、1年以内に77%、2年以内に92%が発生しているがこの累積発生率は外傷性てんかんと類似している。 脳損傷の慢性期には搬痕部にてんかん焦点が形成されて痙攣が起こるが、脳損傷の急性期には神経細胞から逸脱したKイオンがneuronの膜電位の
depolarization shiftを誘発し、痙攣を惹起する22,31)。 Willmoreら35)は頭部外傷後のてんかんは外傷による脳表や脳内のヘモグロビンおよびトランスフェリンから遊離した鉄がてんかん発現に関係しているとの説を発表している。
この術後早期の痙攣は外傷・脳梗塞・脳手術後などに共通して4~9%の頻度で認められる。

表1
脳手術後のけいれん発生率
術後の発作発現率

Author year          %
Fukamachi 1985 8.9(<48hrs)
Kvam 1983 4.3(<24hrs)
Asato 1978 11.9
Foy 1981   14
North 1983 8 drugs(+)
20 drugs(-)
Ishikawa 1986 3.1 5.6(supratetorial)
Yamazaki 1993 4.7

Post Glioma Surgery
Boarini 1985 21 drugs(+)
39 drugs(-)
Postshunt Surgery
Dan        1986 9.4
Postdrainage
Copeland     1982 24
Post Aneurysm Surgery
Ishikawa     1984 11.8
Kumagaya 1984 9.4~8.3
Keraene      1985    14
Sbeih       1986 3

. 外傷性てんかん

本邦では外傷後のてんかんを外傷性てんかんと呼称するが、社会医学的には外傷後てんかんとして取り扱う方が適切である。外傷性てんかんの診断基準は、Walker33)の基準が有名である。 表2にそれを示す。

表2
Walkerの外傷性てんかんの診断基準(中村の要約)
1) 発作はまさしくてんかんである。
2) 外傷以前には痙攣を起していない。
3) 他に脳または全身疾患を持たない。
4) 外傷は脳損傷を起こしうるほどに強かった。
5) 最初のてんかん発作は外傷以来あまり経過して
いない時期*に起こった。
6) てんかん型・EEG・脳損傷部位が一致している。
*:外傷以来あまり経過していないとは、閉鎖性頭部
外傷の場合、受傷後2年、閉鎖性の場合受傷後10年。


第5項目の外傷とあまり隔たっていない時期とは、閉鎖性頭部外傷の場合には2年、開放性の場合には10年である。 外傷性てんかんの多くには脳損傷部位に合致したCT上の低吸収域(MRT1強調画像ではlowintensity)が認められる14)。脳波はてんかんの診断には役立つが外傷性てんかんの診断には役立たない。
しかし@一側性の徐波焦点の持続、悪化、再発、A徐波の両側化、B棘波の出現と増大などを示す症例ではてんかんの発生の危険が高いとScherterとWeesely27)は報告している。
Walker基準はきわめて明解である。この基準を満たしたものはまさしく外傷性てんかんと診断できる。
しかし実際の患者でこれを当てはめてみると判断に苦しむ症例が少なくない。すなわち外来患者で外傷性てんかんと診断されている患者でこの基準を6項目とも満たしたのはわずか1割であるとも言われている。
日本における多施設共同研究による外傷性てんかんのリスクファクターの研究11)を次に紹介する。 疾患を重症群(I群126例)と軽症群(II群191例)にわけ5年間に亘り追跡した。I群から16例(12.7%)てんかんが発生した。 II群からは発作を起こした症例は無かった。 そこでI群で発作を起した群と起さなかった群を比較した。 統計的有意差を認めたのは、意識障害、神経症状、CT異常、リスクの重複するもの、脳内血腫、受傷時の飲酒、手術を受けたもの、受傷1ヶ月後の脳波異常、高年齢であった。 もっとも相対的危険率が高かったものは、月単位の意識障害であり、以下リスクの合計が5つ以上、1ヶ月後の脳波異常、手術、大脳半球巣症状、飲酒、全般性大脳機能低下、脳内血腫の順となる。 重回帰分析によると外傷性てんかんに関係する因子として全般性大脳機能低下、早期痙攣、1ヶ月後のCT異常が選定された。 以上より大脳の損傷がより強いほど外傷性てんかんの発生率が高いと要約される。
外傷後てんかんは入院頭部外傷患者の5%以下、重症頭部外傷に対象を限定しても15~35%。 外傷から初回発作までの期間は1年以内が約50%、2年以内が80%程度でその後減少する傾向にあるとする報告が多い1,2,5,9,11,15,17)。戦傷による脳損傷からは30%発生すると言われている。外傷性てんかんの診断には客観的な脳損傷を立証することが重要であり、CT/MRIなどの所見が有用である。
III)

分類

A post-traumatic epilepsy(PTE)の分類15)
a) immediate PTE:受傷直後に発症するもの:
即時型外傷性てんかん=超早期てんかん。24時間以内に発生する。
b) early(onset)PTE:受傷後1週間以内に発症するもの:早発てんかん。a),b),を併せてearly
epilepsyと呼ぶ場合もあるが、正しくはearly/immediate posttraumatic convulsionと呼称するのが正しい。
c) late(onset)PTE:受傷後8日以後に発症するもの。
d)晩発てんかん=一般に外傷性てんかんはこの晩発てんかんを指す事が多い。

B.外傷性てんかんの発症のhigh risk患者は

a) 意識障害や神経症状を有した症例。
b) 早期てんかんが有った症例。
c)脳実質損傷を伴う症例や手術症例などである。Jennettは意識障害(外傷後健忘posttraumatic amnesia24時間以上), 硬膜裂傷、早発てんかんの順で外傷性てんかんの発生に関係しているとした9)。これらの条件がすべて合わさるとてんかんのリスクは70%にまで高まる。
なお、high risk患者でも予防的投薬の有効性を認め無かったとする報告もある。
小林らの報告(1997)13)では、外傷性てんかん(外傷後1週間以降)について他施設共同研究を行ったが、追跡期間平均5.44ヶ月で受傷後1ヶ月以降の慢性期の抗痙攣剤を中止し、外傷性てんかんの発生率を調査したところ、2.20%に外傷性てんかんが生じた。 これらは脳挫傷や急性硬膜下血腫などの脳実質損傷群から生じており、脳実質損傷のない患者では認め無かった。1週間以内のてんかん、脳実質損傷などが危険因子であった。 受傷後慢性期の抗けいれん剤投与がなされた頭部外傷患者群(外傷性てんかん発生率3.1%)と比較し、統計学的有意差を認めなかった。
外傷後1週間以内に起こるearly epilepsy予防のために外傷後早期にphenytoinを投与しても、予防効果が認められないことがYoungらによって報告された37)。 しかしearly epilepsyを起した患者に対してはphenytoin、(phenytoinが無効の場合にはphenobarbitalの静注)などの抗痙攣剤の静脈内投与が望ましい。 特にphenytoinを静脈内に投与して血中濃度を25-35μg/mlに保ち、early epilepsyに伴う再発発作と発作に伴う副作用を防止すべきである。
その後6ヶ月phenytoinを投与し15-20μg/mlに血中濃度を保ち、脳波がてんかん性でない場合には中止する。Late posttraumatic epilepsyが起こった時には最終発作後1年間薬剤を続け、脳波所見と何回lateposttraumatic epilepsyが起こったかによって薬剤の投与をどうするか判断する37)。
一方杉山ら30)はearly epilepsy を起すリスクの高い症例ではphenytoinの予防投与をすべきであると主張しているがcotrolled studyではない。 Youngと杉山の方針でoutcomeに変わりがないかどうかを今後明らかにすればphenytoinの投与法が明らかになるであろう。

IV) 外傷・術後けいれんの抑制の目的

脳挫傷を伴う重症な頭部外傷あるいは脳損傷を伴う脳手術後には、術前のてんかんの有無に関わらず、抗てんかん薬を用いた方が良い。その理由は

@ 痙攣による二次的脳障害の防止                            外傷急性期あるいは脳手術後にけいれんが起こると、神経細胞のanoxiaにより、脳浮腫は増強し、意識障害や麻痺が増悪し、回復を阻害するばかりでなく、herniationを惹起することもある。 抗てんかん薬が術後急性期の痙攣予防にも効果を示すことは明らかである。
A 脳保護作用
抗てんかん薬には脳保護作用がある。
Phenytoin(PHT)の脳保護作用が注目されてきたが、PHTは細胞内外の陽イオンの移動を抑制することにより膜安定化作用を現し、低酸素脳や虚血脳に対して脳保護作用を示すとされている12)。 1974年日本で合成されたベンゾイソキサゾール系抗てんかん薬であるzonisamide(Excegran, ZNS)もPHTと同様あるいはそれ以上の脳保護作用が報告されている7)。
Bてんかんの予防効果
外傷性てんかんは2年間にそのほとんどが発生し、2年を過ぎると発作は軽快する傾向がある。そこで抗てんかん薬を一定期間(2年程度)投与する事によって、てんかんの発生を予防できるのではないかと思われ臨床研究が行われたが、PHTやphenobarbital(PB)を用いた研究では効果は芳しくない15,16,17)。 PBを予防的に投与しても投与期間を過ぎるとてんかんが発生し、外傷性てんかんの発生率は減少しなかった。 ZNSは、皮質凍結による棘波やタングステン酸塗布による棘波を抑制する効果がある。 すなわちてんかん原性焦点の活性を抑制する効果が証明されている。 中村らによって行われた術後けいれんの予防的投薬臨床治験(2重盲検群間比較試験)20)によって、術後1年間のけいれん発現率は5.4% (zonisamide): 6.3% (phenobarbital)と差がなかったが、2年間の追跡では前者が7.1%、後者が12.1%と差が認められた。 特に部分発作の発現率は前者0%:後者5.6%と統計的有意差が示された。 従ってzonisamideは長期にけいれんの発現、特に部分発作を抑制する予防的効果が期待できそうである。
 結論として上記high risk患者では予防的投薬が必要と思われるが、使用する薬剤としては部分発作に適応となるPHT, CBZ (carbamazepine), PB,ZNSが選択されるべきである。 VPA(valproate)は全般発作の第一選択薬であり、外傷・術後てんかんの予防的投薬の第一選択とはならない17)。
予防的投薬のこれまでの研究によれば、投薬群と非投薬群のてんかん発生率は0:20.8%,4.0:38.0%,6.0:51.0%と10倍近い発生率の差があり明らかな効果が有るように思われるが、Rapportは1972年のレビューで十分にコントロールされた研究としては評価していない17)。 また抗てんかん薬の血中レベルも研究されておりYoungらの研究ではphenytoinを10-20μg/mlとして1年以内に6%しか発作の発現がなかったので予防的投薬は有効としている36)。 
WylerなどはPHT投与群:対照群=10%:50%とし、Chekoslovakiaの検討でも2.1%:25%と明らかな差を示した28)。
2重盲検を使用した研究を外傷性てんかんに適用した検討は無いが、開頭術後のてんかんについては発作の発現は投薬群:対照群=7.9%:16.7%と約2倍の差が認められている(Northら21))。以上の研究では予防的投薬の効果は明瞭のように見えるが、Cavenessらの第一次、二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争を通じて予防的投薬や脳外科治療の進歩に関係なくてんかんの発現頻度は同じであったとする研究を無視することはできない2)。
血中レベルも十分にコントロールされた長期間の大規模な対照試験が最終的結論を得るためには必要であろう。Temkinらはdouble blind placebo controlledstudyをGCS10以下の症例に行い、外傷後1週間以内の早期てんかんではphenytoinの抗痙攣作用が明らかに証明されたが、late epilepsyの予防効果が無かったことを報告した32)。
結論としては、前述の外傷性てんかんのリスクの高い患者では一定期間抗てんかん薬を投与することが妥当ではないかと考えられるが小林らの報告では抗けいれん剤の有無とてんかん発生率には有意差が認められなかった13)。もし使用するとすれば成人ではPHTを2年間、小児ではphenobarbitalを20歳まで用いるのが良いと思われる15)。抗てんかん薬はその有効血中レベルを維持しなければ意味がない。投薬中止は脳波所見を参考にして徐々にweaningするのが正しい。
C発作の発生と停止
てんかん発症についての報告は、戦傷に関した成人のデータが多い。小児まで含めた一般のデータでは潜伏期が長い点が注目されている。 特に小児では成人に比して発作の発生が遅い傾向にある16)。一方Jennettのシリーズではearly seizureは5歳以下の小児では特に起こりやすいと報告されている9)。 
 外傷性てんかんが持続しやすい(治りにくい)要因として@最初の発作が1週を過ぎて起こる例、A発作の回数が多い例(特に年3回以上のもの)、B焦点発作と全身発作の合併例、の3つをWeissとCaveness(1972)が上げている34)。一方意識障害の長さ、硬膜裂傷は発作の持続とは関係しないとしている。
 しかし、外傷性てんかんの特徴として発作の停止の傾向が大きい。2年で約30%、5年で約50%の発作停止が報告されている。 中村によれば開放性頭部外傷によるてんかんの39%、閉鎖性の70%の発作が停止したという19)。 Walkerは2、3年目から発作が少なくなり、結局10-15年には約46%が停止するという33)。、
V)欧米の最近の文献での外傷性てんかん・抗痙攣薬に関する知見
1)Pohlmann-Edenらの研究では、外傷後てんかん
は外傷後2年以内に最初の発作が68.5%に生じていた23)。 Age-matched controlとの比較での危険因子は、focal sign(初回検査),missile injury,frontallesions,intracerebral hemorrhage,diffuse contusion,prolonged posttraumatic amnesia, depression fracture, cortical-subcortical lesionsなどであった。 最後の3つの組み合わせが特に危険率が高かった。
 またcombined seizure pattern; high seizure frequency,AED-non-compliance,alcohol abuseは発作コントロールが困難である予想因子であった。
2) early post-traumatic epilepsyに対しては
phenytoinの投与は受傷7日以内の痙攣を減少させた。
3) late post-traumatic epilepsyに対しては2年間の追跡調査においてphenytoinの有効性は証明
できなかった。
late post-traumatic epilepsyを予防するための抗痙攣薬の長期投与は望ましくない4,8,12,17,19,21,26,28,29,30,32,37)--- などである。

VI) 外傷性てんかんに関する基礎的研究の動向
a) 錘体細胞の傷ついた軸索のsprouting(発芽)が過剰で反復性の興奮性シナプスを形成し結果的に過剰興奮性神経ネットワークを形成する(McKinneyら199718))。培養海馬スライスをナイフでカットした後に海馬のCA3領域に軸索発芽が生じると一個のneuronの興奮が近接したneuronを興奮させる。 神経末端での伝達物質放出の増加は見られていないが、発芽によってCA3neuronは過剰の興奮性結合を有するようになる。単一の錘体細胞の刺激によってネットワーク内の多シナプス後興奮が著明に増加する。このことがGABA作動性神経伝達の減少は予想に反して存在しなかったにもかかわらず発作が起こる機序を説明する。 このような発芽はCA1領域には認められず、従って生理学的な過興奮はこの領域には認められなかった。 外傷性てんかんが数年経過してから起きるという点などはこの発芽が、場所や損傷の性質がそれぞれ異なる脳損傷後のてんかんを説明する唯一の因子ではないかということを示唆している24,25)。
b) In vivoで病変を2−3週間前に作製した外傷性てんかんモデルの部分的に分離したin vitro皮質てんかんsliceモデルではてんかん性活動が発生する。 
このモデルでは発作間歇期のfield potentialに同期した第5層錘体細胞に抑制性多相性シナプス後電位が認められる。このモデルではparalbumin;calbindinなどがGABA性神経細胞体あるいはneuopilに増加する。またGADあるいはGABAの活性が増加することが判明した。これらの事実は慢性皮質損傷に伴うてんかん原性領域ではGABA性抑制が増強されている。 またinterneuronに対する錘体細胞の軸索性発芽やGABA伝達性neuronの増強、抑制性軸索の発芽などによる錘体細胞のシナプス接触の増加などのすべてが抑制性の活動が増強していることに寄与している。 これらの実験結果からは慢性てんかんモデルで従来いわれていた脱抑制仮説は支持されなかった25)。
c) すべてのてんかん現象でGlutamatergicシナプスが重要な役割を果たしている。 シナプス後部のglutamate受容体(ionotropic&metabolic)が広く増強されている。NMDA受容体やAMPA受容体の拮抗剤は多くの動物てんかんモデルで強力な抗痙攣作用を示す。Glutamate 受容体あるいはtransporterにおける多くの異なった変異はてんかん原性に寄与する。 いくつかの遺伝子変化が動物モデルでてんかん原性を示すことが証明されているが、glutamatergic機能に関連した特異な遺伝子変化が人間のてんかん症候群でも関連があるかは証明されていない。 動物モデルでも人間の後天性てんかんでもNMDA受容体の機能変異が明瞭に証明されている。代謝性受容体機能の変化がてんかん原性に重要な役割を果たしている可能性が有る3)。
d) melatoninは鉄イオンによって誘発されたラットにおけるてんかん原性発射をperoxidationを抑制することによって抑制することが証明された10)。


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