症例集

「側頭葉てんかんに対する側頭葉下面からの手術」

Table I Demographic data, postoperative seizure control in terms of Engel's classification, and pre- and postoperative WAIS IQ scores

Pt : patient, SD-EEG : Results of origln of spontaneous seizures by EEG video monitorlng using invasive electrodes. Follow-up period (mo) : follow-up period in terms of months. Engel's class : Engel's postoperative seizure control classification. WAIS : Wechsler Adults Intelligence Scale. revised Wechsler Intelligence Scale for Children : ** revised WAIS.

V.手術成績

非腫瘍性の内側側頭薬てんかん患者で,本手術後1年以上経過した症例(平均38.7ヵ月,13-75ヵ月)は15例(男性9名,女性6名)である(Tablel).術前のアミタールテストにおいて言語優位半球が両側性であったcase12を別にすると,手術側は優位半球側8例,非優位半球側6例であった。治療成績は,Engel's classificationのclassI&II(seizure free & rare seizures)は9例(60%),III(whorthwhile improvement)は5例(33%),IV(no whothwhile improvement)は1例(7%)であり,手術の有効率(ClassI-III)はEngelらの集計3)と大差ない。今までのところ術後に片麻痺や失語などを来たした症例はないが,初期の症例では動眼神経と滑車神経の一過性機能障害が見られた.1例(case9)では中等度の記憶障害が生じたが,これは非手術側の海馬にもすでに障害があったものと考察された。この症例以降,記憶検査としてWMSR(Wechsler Memory Scale-revised)の導入と,深部電極を用いた海馬電気刺激による術前記憶テストを行うようにしている12).ATLでは,Meyer's loopの切断による無症候性の視野障吉は52-70%9.27〕に,症候性は8%に見られる17〕ようだが,われわれのsub-temporal AHでは,下方より下角を開放するため,術後の視野検査は全例正常であった開頭時の乳突洞開放のために,術後に惨出性中耳炎が発生することがあるが,2-3週間で自然に吸収される.

VI.神経心理学的変化

WISC-Rを用いた8歳症例(case13)および言語優位半球が両側性であったcase12を除外して,優位半球側切除群(以下優位群)の7例(case3,4,6,7,8,11),非優位半球側切除群(以下非優位群)の6例(case1,2,5,9,10,14)で術前後の神経心理学的変化をWAISを用いて考察した。優位群と非優位群の術前のIQ(83.0,76.0)には有意な差は認められなかった。優位群の術前/術後のVIQ,PIQ,FSIQを比較してみると,それぞれ(83.0/79.9),(87.4/93.1),(83.9/84.4)であり,優位差はみられなかったが,非優位群の術前/術後では,それぞれ(76.0/83.0),(76.2/89.0),(73.7/84.2)と全てに優位差を認めた(p<O.05).優位群の術前後のWAISの変化は,ΔVIQ;一3.3,ΔPIQ;5.7,ΔFSIQ;0.6で,非優位群ではそれぞれ7.2,12.8,10.5であった。最近Renowdenらは,術後2年経過した左切除群では,trans-sylvian AHおよびtranscorticaI AHの2つのAHは,ATLよりもVIQの上昇があったと報告している18).杉下は,左ATL例の脳研式記憶検査で18例中12例(67%)に記憶障害が出現したと報告しているが,われわれの左selectiveAH 症例で同一の検査を行ったところ6例中2例(33%)に記憶障害が出現しているのみであった。症例数はまだ少ないが,これらの事実はわれわれのアプローチの利点を示唆しているものと考えられる.

「側頭葉てんかんに対する側頭葉下面からの手術」『NEUROLOGICAL SURGERY』第25巻 第11号 1997年11月10日 発行より引用。

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