ヒトラーとクレーと子どもカレンダー

04.6.30 創風社 編集長 千田   編集 高橋

     
クレー 「死と火」
子どもの絵

    

 子どもの絵に関する出版に関わって,30年近くになります。この世界は奥が深く、最近の子どもをとりまく事件の報道を見るたびに、この子たちはどういう絵を描いていたのだろう、おそらく絵に何か心の悩みが表現されていたにちがいない、ということをよく思います。
 6月中旬、NHKの制作スタッフの方が、創風社を訪ね、創風社の子どもカレンダーを見せてほしいということでした。今、BSハイビジョン特集(110分)で「パウル・クレー」の企画を進めていて、クレーの絵と並べられる子どもの絵をさがしている、いろいろなところを取材したが、大人の影響が加わっているものが多く、子どもそのものの自己表現としての絵が見つからなくて、ようやく子どもカレンダーの絵をみつけた、ということでした。

   
クレー 「ベッドに横たわる道化」

子どもカレンダー
 クレーは子どもの絵を高く評価し、子どもの絵に少しでも近づくことを努力して芸術活動をしていましたが、ヒトラーは「こんな絵は芸術ではない」といって、クレーを弾圧し、クレーはスイスに亡命してなくなります。ヒトラーに弾圧された、クレーの絵が100点発見され、それをNHKはBS特集で取り上げ、クレーをよく理解するために子どもの絵もさがしていて、子どもカレンダーの取材にきたわけです。
ヒトラーに弾圧された芸術家の作品は「退廃美術」として1937年ミュンヘンで展示され、その後大々的なヒトラーによる芸術弾圧が続きます。弾圧されたのはクレーだけでなく、グロッス、カンディンスキー、シャガール、ノルデ、エルンスト、ゴッホなど新しい芸術はほとんどやられたようです。
 クレーの絵とは何か、子どもの絵とは何か私たちが考える素材がたくさんあると思いました。なお、ヒトラーが「退廃美術」とした作品はかなり保存されていて、持主に返されたのもありますが、戦後50年たって、アメリカやドイツで大々的な「芸術の危機―ヒトラーと退廃美術」展が開かれ、日本にも1995年神奈川県立近代美術館や、宮城県美術館など4ケ所で開かれました。私はこのときこれを見てきました。
そのときのカタログも紹介します。

  

 子どもカレンダーはうまく描く、きれいに描くということではなく、子どもが自由に自分を表現できる絵をめざして、努力してきました。今の子どもたちをとりまく、事件をみるたびに、たくさんの大人たちがここの重要性にきがつくことが何よりも大切と思いました。

参考:子どもカレンダー

   北川民次美術教育論集

   こんな絵を描く子どもが危ない

   そのまんまでいいんだよ

   子どもの絵は心