新刊案内2010年

木村博(長崎総合科学大学)編

 フィヒテ

―「全知識学の基礎」と政治的なもの―

発売中

A5判上製 360頁 本体 2400円 

いうまでもなく,フィヒテ『全知識学の基礎』(1794/5年)は,人間知の基礎づけを究明する,極度に抽象的な書物である。しかしながら,どうじに看過されてはならない点は,『全知識学の基礎』がもっとも優れた意味での「実践優位」の書物にほかならないこと,である。このスタンスが堅持されるからこそ,『全知識学の基礎』のあと,『知識学の原理にもとづく自然法の基礎』(1796/7年)や『知識学の原理にもとづく道徳論の体系』(1798年)が出されるのであり,さらに後期においても,『ドイツ国民に告ぐ』(1808年)の出版や『国家論』(1813年)の講義が遂行されるのである。こうした実践的なものへの関心の持続は,知識学そのものの核心に通底するものである。フィヒテの実践的なものへの視点は,倫理・宗教から国家や歴史までを射程におさめた包括的なものであるが,本書では,とりわけ政治的なものに着目する。「実践優位」の徹底化の帰結が政治的なものだからである。
 以上の角度から,本書は,『全知識学の基礎』の内在的解釈をとおして,理論的なものと政治的なものとの接点に焦点をあてる。すなわち,従来主として理論的解明に力点がおかれてきた『全知識学の基礎』研究の制約を突き破り,政治的なものとの具体的広がりを,承認論や平和論のみならず,ユダヤ人問題,さらには(フィヒテ政治思想の)日本受容にいたるまで,あらたな視点から究明する。

   目 次

   はしがき――本書の課題と構成  木 村 博
   第一部 『全知識学の基礎』と政治的なもの
    第一章 第一根本命題と立言判断  木 村 博
    第二章 理論的知の臨界
――『全知識学の基礎』における
          観念論と実在論の相克――  大 河 内 泰 樹
    第三章 「永遠平和論論評」と知識学  新 川 信 洋  
        
 ――カントとフィヒテの接点としての平和論――
    第四章 相互承認論の原理と射程  片 山 善 博
         
――フィヒテとヘーゲルの承認論――      
    第五章 承認と応責  馬 場 智 一
         
――フィヒテとレヴィナスによる`自然状態における闘争への二つの批判――  
    第六章 ドイツユダヤ人による受容から見るフィヒテ政治思想  船 津 真
        
――「ナショナルヒューマニズム」をめぐる同化主義とシオニズムの言説を中心に――
    第七章 フィヒテ政治思想の日本受容  栩 木 憲 一 郎
         
――主にナショナリズム解釈をめぐって――
   第二部 フィヒテ哲学の諸相
    I 座談会:フィヒテのアクチュアリティ  入江 幸男・岡田 勝明・木村 博
    II インタヴュー:ホフマン教授に、フィヒテにおける自然および言語の問題を問う 
                                 聞き手:木 村 博
    コラム
     「初期フィヒテの啓蒙思想」  宮 本 敬 子
     「自我と抵抗――ビランとフィヒテ」  神 山 薫
     「フッサールとフィヒテ」  村 田 憲 郎
     「フィヒテとベンヤミン」  三 崎 和 志
     「フィヒテと江渡狄嶺――像と場」  木 村 博 

    あとがき  木 村 博

   資料編 日本語で読めるフィヒテ文献目録  色 摩 泰 匡 
        フィヒテ年譜  色 摩 泰 匡 

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