新刊案内 2015年10月14日発売

仲 島 陽 一 著

共感を考える

A5判並製335頁 本体2000円

発売中

 

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 本書はその続編ないし姉妹編と言えよう。『共感の思想史』を読んでなくても読め、実際その前に書かれたものも含むが、特に関心をもたれた方は合わせ読んでいただければ幸いである。また本書自体、興味ある章から読んでかまわない。
 第一部は全体的な問題である。第一章では、特に「共感の思想」と呼ぶべき対象を規定するとともに、この問題が一般人にとって重いわりに理論的・思想的に軽視されてきたことについて述べた。第二章では共感にかかわる日本語を考察し、またアダム・スミスの冒険的な読解を介して、共感に関する諸思想への私自身の位置を示してみた。
 第二部は思想史的考察である。第一章は、キリスト教とならんで西洋思想の大きな基盤となっているストア派・エピクロス派などを扱う。私はそれらに積極的意義も認めるが、ここでは共感が問題になっていることと、ニーチェやフーコーにつながる面を意識するところから、批判が正面に出た。第二章はルネサンス期のモンテーニュの共感論を、その多義性に留意しつつも、共感の思想の一つの源になる点を探った。第三章と第四章は啓蒙期の共感論を、美学や教育思想の面からとりあげた。このあたりから現代に直接つながる論点が現れる。
第五章は近世啓蒙思想を近代功利主義に転じたベンサムをとりあげ、共感の思想の立場からその功罪を検討した。第六章と第七章はアメリカが対象となる。第六章は歴史的にも分野的にも大きくその社会と文化を扱い、第七章は二十世紀後半以降に活躍の思想家四人を簡単ながら考察した。
 第三部はいろいろな研究分野を学びつつ共感にかかわる考察を行う。第一章の生物学では、一世代前の「利己性」万能論や遺伝子還元主義がかなり変わりつつあると感じられる。ドゥ・ヴァールの研究(『サルとすし職人』原書房、二〇〇二、『共感の時代へ』紀伊国屋書店、二〇一〇、他)などは共感の生物学的基礎に直接導く。
動物の「利他的行動」の研究も進んできた。第二章の生理学と病理学も近年大きな発展を見せている。「ミラーニューロン」の発見は直接には共感論にだが、人間(を含む社会性動物)や社会の見方に革命を起こす可能性を持っている。またアスペルガーや自閉症の研究も未解明の面とともに注目すべき進展もあり、共感能力および人間そのものの理解に重要な光を当てそうである。第三章では今日広範に使われるようになったゲーム理論をとりあげてみた。共感には最も遠そうなアプローチであるが、アクセルロッド以降、自利を求める戦略的な行動と、共感にもつながる協力的な行動と、両者の総合的な把握が、実践的にも理論的にも求められているように思われる。
 第四部は文芸との関連で論じたものである。第一章は日本古典文芸における「あはれ」と「あはれみ」の意識を、共感論の観点から通してみたものである。第二章はむしろ共感の不在や不成立を『源氏物語』においてみたものである。第一部第二章のスミス論とならんで強引な「読み」であるかもしれないが、あえて一石を投じてみた。第三章は「赤い糸」という故事成語の由来をたどりつつの考察である。なお日本近現代の文芸については他日別に公にしたいと希望している。(「前書き」より)


第一部 共感に向けて、共感をめぐって
 第一章 共感の思想に向けて
 第二章 うらむ・うらやむ・ねたむ――情念の論理と倫理――

第二部 いろいろな思想と共感
 第一章 古代後期思想における<同情>の否定
 第二章 モンテーニュと「共感」の問題
 第三章 フランス啓蒙美学における模倣・共感・独自性
 第四章 演劇を通してみた啓蒙教育思想
 第五章 ベンサムの倫理と共感の思想
 第六章 アメリカと共感の問題
 第七章 現代アメリカ思想における共感について

第三部 いろいろな理論と共感
 第一章 生物学と共感
 第二章 共感の生理学と病理学
 第三章 共感とゲーム理論

第四部 いろいろな文芸と共感
 第一章 日本文芸における「あはれ」と「あはれみ」
 第二章 源氏物語と共感
 第三章 「赤い糸」説話の史的序説

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