編集長見習い日記17

しょうちゃんの日記
――自閉的傾向のあるわが子と向きあった30年―― を読んで 

 年末は仲本静子著『しょうちゃんの日記━自閉的傾向のあるわが子と向き合った30年』の原稿の素読みを進めました。しょうちゃんのお父さんは創風社で、『哲学入門』、『生活の中の哲学』『論理学入門』など哲学書を書いてきた故仲本章夫氏です。この原稿を読み進めながら、私自身、学生時代に知的障害のある子どもと遊ぶボランティア活動(あすなろ会)の経験があることや、子どもカレンダーを一緒につくっている保育園で障害児を育てていることもあって、それらのことをもう一度、自分なりに整理してみようと思いました。
 私は学生時代5年間、週末に3時間ほど様々な知的障害がある子どもと遊びました。その中で自閉的傾向のある子どもとも関わりましたが、コミュニケーションをとるのが困難で、予測できない突発的な行動をとることもあり、必死な思いをしながら、3時間子どもと向き合うこともありました。46時中子どもと向きあっている親の苦労は想像できませんでした。養護学校が子どもに基本的な生活習慣や、社会に出て自立して生きていく力をつけていくことを主たる目的とした場所であるのに対し、あすなろ会は遊びや、町等にでかけることを通じて、楽しく様々な社会経験の場を共有していく、そんなところだと理解しながら活動をしていました。家族だけでは、電車にのったり、食事にでかけたり遊びに連れていったりなかなかできず、あすなろ会のようなサークルや障害者の理解者を親や子どもたちは非常に強く求めていたと思います。子どもや親や学生たちとのかかわりを深めるなかで、「障害児とかかわっている」という少し固い意識から、自然とともに過ごす時間を楽しんでいく余裕がうまれてきたと思います。
 創風社に入ってからは、脳性麻痺や難治性てんかんや重度の自閉症などの
障害者に関する出版の仕事に携わることになって、適切な時期に適切な医療、療育を受けることができるかどうかで、子どもや家族の人生がまるで変わってくる、そのようなことがわかり障害者のかかえる「障害(病気)」を強く意識するようになりました。また、いかがわしい障害児訓練法にだまされ全財産を失ってしまった人から相談の電話をいただくこともあり、適切な医療や保育をしているところの活動の内容の情報共有の重要性を強く実感するようになりました。
 
美術教育においても自閉症の子どもの絵を何枚もみてきました。あざやかに画面いっぱいに色を塗り尽くした作品を何枚も見る度に、自己表現が困難な自閉症の子どもが必死に何かを周りに伝えようとしているそんなことを強く感じ、自閉症児の美術教育、児童画の研究も重要だと強く実感するようになりました。
 このように私は、創風社に入ってから、障害者のもつ、「障害」を強く意識して、医療情報や、美術教育に向きあってきました。しかし、この
『しょうちゃんの日記』を読む中で、「障害」ということにとらわれすぎずに、自然と子どもと時間を楽しむことの重要性を再確認をできたと思っています。しょうちゃんが、友人、先生、家族や周囲の人々たちのなかで、人生をエンジョイしていることがとてもよく伝わってきました。このことは私が学生時代あすなろ会の活動を通じていろんな局面で強く感じたことと一致していました。
 障害児の成長記録や写真を公開することはデリケートな内容を含んでいるので、情報公開をしない人が多いです。しかし、この本を出版することは多くの困難をかかえて子育てしている親に大きな励みとなると思います。
 この本の役割は、育てていくのが困難な障害のある子どもの理解の輪を周囲に広げていくということだと思います。創風社では清水寛編
『(続)生きること・学ぶこと』板垣誠著『母の決断』『子どもカレンダー』をだしていますが、それらに近い位置づけになると思います。そんなことを考えながら編集作業にとりかかっているところです。

05年1月3日