新妻二男(岩手大学)・内田司(札幌学院大学)編著

都市・農村関係の地域社会論
―― 再生産論・生活文化論・自治体論 ――

A5上製 164ページ 本体1900円 

 本書は,北海道,東北そして沖縄をフィールドに,地域社会研究を蓄積してきた研究者たちによって,地域社会を再構成するための理論を構想しようという試みの第一弾と言えるものである。
 執筆者たちの過半は,北海道,東北,沖縄に居住していることもあって,単に「周辺地域」に研究的関心を寄せているというに止まらず,否応無く「周辺地域」の問題を肌で感じ,その深刻さに憤りを覚え,また我が事として悩んでいる方々でもある。それ故にこそ,「周辺地域」の地域社会再建の視点にたって,地域間の不均等発展の進行に歯止めをかけ,国土全体の調和ある発展を取り戻し,人間と自然,都市と農村,そして人と人との協同的で協調的な,その意味では持続可能な発展の可能性・方途を探ることを,共通の課題としているとも言えるのである。

 本書の構成は大きく以下の三部に分けられる。第1部は,近代化と資本主義的生産様式のグローバル化にともなう地域的不均等発展とそれによるさまざまな問題の発生がどのようにして起こるのかを解明する課題である。本書では,第一には,資本主義的な生産様式の発展にともなう地域間分業システムの発展と地域間不平等関係の形成論,第二に,政治的視点による近代国家の形成過程における中央地方関係の形成論,そして,第三に,物質の自然循環・生態学からみた都市・農村関係論によって,その課題解明に迫ろうとしている。
 第2部は,「周辺化」していく(または,させられていく)地域社会を再建し,また,ある地域を「周辺化」していくような地域的不均等発展を乗り越えられるような地域社会間関係を生み出すことによって,すべての地域社会の住民により住みやすい居場所を創造する主体と,そうした人々の活動を生み出していく原動力を解明する課題である。効率性・生産性・利潤性・計算可能性・競争主義という市場経済の原理を中核とした現代社会の生活原理の止揚の方向性を探ることも,ここでの重要な課題である。本書ではこの課題を解いていく重要な要素として,地域住民の方々の,自分が住んでいるか,住むことを決意した地域社会への愛着とアイデンティティーや,そうした愛着とアイデンティティー形成の底流にある生活文化,さらに共通の生活経験・生活形態に着目している。また,それらの生活文化や生活経験の共有化と自然と人間の調和的関係,および住民間・地域社会間での協(共)同的な関係の形成との関連に注目するものである。
 最後に,第3部は,住民の人たちの地域社会再建の活動の公共化・政策化と各級の地方自治体,公共機関の役割の問題を解明する課題である。ここでは,各級自治体の,経済成長最優先の開発主義的地域づくりではない,地域住民の生活優先の地域づくり,住民運動(活動)と住民自治と地方自治体の役割論が論じられる。総じて,本書は,これまでの地域社会の社会構造を解明することを重視してきた「構造論」的地域社会理論から「再生産論」・「変動論」・「(命をまもり,暮らしをたて,個々人の能力や特技を生かした社会参加を豊かにする社会)関係形成論」を重視した地域社会理論へ移行することをめざしている。キーワードは,持続的再生産・社会的アイデンティティー・自己決定性・協(共)同性である。

第1部 地域的不均等発展と地域社会
 第1章 社会的再生産論における都市と農村の関係論
    (内田司)  
 第2章 近代国家形成以降の中央―地方関係(新妻二男)    
 第3章 物質の自然循環・生態学からみた都市と農村・
     資本主義(内田司)
第2部 自然・生活・文化と地域社会
 第4章 自然・社会・生活文化――自然と社会の間柄(内田司)
 第5章 沖縄における村落(字)と共同店(北爪真佐夫―札幌学院大学) 
 第6章 沖縄の字誌づくり(中村誠司―名桜大学) 
 第7章 北海道型地主としての有島武郎(内田真木―古河第二高校)
 第8章 地域に生きる女性たち(中囿桐代―釧路公立大学)
第3部 住民運動(活動)・住民自治・地方自治
 第9章 地域づくり(地域産業興し)と自治体(新妻二男)
 第10章 地域社会の再生と地方自治(大坪正一―弘前大学)
 第11章 住民自治と住民運動(大坪正一)

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