既刊案内2008年10月20日発売

鳥山 重光(明治大学農学部)著

黎明期のウイルス研究
―― 野口英世と同時代の研究者たちの苦闘 ――

A5判上製 180頁 本体2000円

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 19世紀半以降にフランスのパスツールやドイツのコッホを中心に始まった微生物学や細菌学研究は,人類を微生物による病苦から救った。しかし,まもなく細菌の範疇からはみだした病原体,濾過性病原体,ウイルスの存在に遭遇することになる。この濾過性病原体の研究の舞台はヨーロッパから,アメリカに移り,折から始まった酵素化学研究の進展とともに,アメリカで急展開することになった。
 一方,わが国のウイルス研究は太平洋戦争をはさんで大幅に遅れをとった。しかし,戦後,海外研究者間の交流も盛んになって急速に遅れを取り戻し快復した。情報収集も研究設備も不足はない。といっても,わが国独自のウイルスやウイルス病の研究体制が定着したのだろうかと疑問はのこる。イネ科植物のウイルス病の研究を始めて30年になる著者が,自分が置かれていたウイルス研究分野を今初めて眺めた鳥瞰図でもある。第2部は,初期の濾過性ウイルス研究の実情を踏まえて,野口英世の業績を批判的に検討し,真の姿を見ようとしたものである。野口の研究業績に対して否定的な記事が多い中で,著者の‘反論’は強調しすぎて映るきらいがないではない。野口の業績を全面否定することへの警鐘である。神話化された野口英世に対する批判は許されるとしても,科学者としての野口英世から学び取るものはおおいはずである。野口英世の業績評価に対する1植物ウイルス研究者の一つの試みである。

目 次


第1部 欧米と日本における黎明期のウイルス研究
 
 はじめに  
 I  ウイルスの最初の発見者
 II  アメリカにおけるタバコモザイク病の研究
 III 日本におけるタバコモザイク病の研究
    1 福士貞吉の米国留学とタバコモザイクウイルス研究
    2 松本巍のウイルスの血清学的研究  
    3 平山重勝・湯浅明のタバコモザイク病の研究   
 IV ウイルス研究とロックフェラー医学研究所
    1 Tomas M. Riversのウイルス研究  
    2 プリンストンに植物病理学部門を新設  
    3 Wendell M. Stanleyの研究を取り巻く環境  
    4 Stanleyの研究を支えた陰の功労者,Louis Kunkel  
 V  Stanleyのウイルス像,その哲学
 VI  川喜田愛郎のウイルス像,その‘ゆらぎ’
 VII 両極端のウイルスから始まったウイルス研究
 VIII 戦後復興と日本のウイルス研究
    1 植物ウイルス学分野 
    2 医科学・獣医学・理学分野−ウイルス学会発足  
 おわりに  

第2部 野口英世とロックフェラー医学研究所
   
 はじめに  
 I 1900年代初めのアメリカの医科学
 II  野口英世にむけられた哀悼文
    1 テオバルト・スミス博士の哀悼文  
    2 ウィリアム・ウェルチ教授の哀悼文  
    3 サイモン・フレクスナー博士の哀悼文  
    4 哀悼文からみた野口英世像
 III ポール・クラークが描いた野口英世
 IV 野口の原著論文とその研究業績の評価
    1 梅毒菌トレポネマと培養成功
    2 黄熱(Yellow Fever)の病原体研究
    3 小児麻痺(ポリオ)の病原体培養
 V ウイルスの培養と野口英世
    1 野口とルヴァディティのウイルス培養
    2 プレセット女史による野口英世「批判」
    3 ウイルスとコッホの条件の変更
 VI  ポリオウイルス研究とフレクスナーの誤算
 VII  ウイルス培養と細菌学パラダイム
 VIII 野口英世に対する中傷はいつまで続くのか。 

資料編 1 19世紀後半〜20世紀初のアメリカの繁栄  
    2 ロックフェラー財団の慈善事業  
    3 黄熱とロックフェラー財団―国際保険部  

 あとがき

立読みのページnew!!(10/2/3更新)

関連書:『水稲を襲ったウイルス病』

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