現代の課題
(2001年 7/12一部追加)

創風社  千田顕史

 創風社の出版活動は約15年になり、多くの研究者の研究の成果を
世に問う場として1つの役割を果たしてきました。
 しかし、この10年間の世界の変化は激しく今までの思想や理論の再検討を迫る重要なこともたくさんありました。それにたいして十分な出版活動はできなかったというのが正直な気持ちです。
 そこでインターネット上に「討論の広場」を開設し、なんとか時代の要請に答えてみたいと思い創風社で著書を出版している各分野の研究者のかたがたに協力をお願いし、今具体化しつつあります。
 内容はどうかということですが、1つの課題を創風社の刊行物より提示します。金田重喜編著『新版・現代工業経済論』(2000年4月刊)の「あとがき」に次のような提起があります。

現代工業経済論の初版が刊行されてから約10年が経過した。この10年は日本にとっても、世界にとっても疾風怒濤の10年,激動の10年であった。その主要な内容は,ちょんまげ「社会主義」の崩壊,日本でのバブル崩壊と長期不況,世界経済の大地殻変動――急速な技術進歩とギャンブル資本主義のグロ−バル化であろう。
  本来,社会主義とは,資本主義の最高の発達による生産力の発展と,民主主義的な労働者階級の形成とを前提とするもので,民主主義と生産手段の社会的所有とが1セットとなって確立されるものである。子育てをしない男を父親と呼ばないように,民主主義のない生産手段の社会的所有も,社会主義ではないのである。ところがいわゆる「社会主義」国はほとんど例外なく,市民革命を経験せず,個の確立,民主主義的成熟がない,経済的には極めて遅れた国々で「成立」した。そこで初期の指導者レ−ニンは内乱鎮圧後ネップ政策をとり,工業化を進めると同時に,大地主制を解体して独立自営農民を育成,個の確立と民主主義の発達を待った後に,農業を集団化するという慎重な政策をとったが病死,野蛮なスタ−リンの独裁体制へと移行し,皇帝・大地主制の代わりにスタ−リン・ソ連共産党が一党独裁する体制に転換する。従って,生産手段の社会的所有という形態は存在したが,運営する主体は,ちょんまげ的〔封建的〕主体で,民主主義が欠如しているために,実体は,国家〔官僚〕資本主義の命令主義的経済で非効率経営となる。いわゆる開発独裁に過ぎないのである。(金田重喜)

 この国家(官僚)資本主義つまり開発独裁の社会を支える人材を育ててきたソビエト教育学(マカレンコ、クルプスカヤ)の基本性格は国家と一体のものであったはずである。ソビエト国家を批判する思想は許されなかったので、ソビエト教育学はこの国家に奉仕することを基本性格としていたはずだ。
 戦後のいわゆる日本の「民主」教育はこのソビエト教育学を導入して、それを運動化してきた。たとえば、生活指導(集団主義)、児童美術教育(リアリズム)、理科教育(生活から離れた知識中心)、作文教育(認識論)などはそうであった。その運動の中で、たくさんの本来尊重されるべき、多くの教育思想が否定されてきた。たとえば、デューイの教育学、美術教育では北川民次や久保貞次郎の創造美育、これらは何よりも上から教えることよりも、個の確立と子どもが内発的に成長することを尊重する思想である。教育基本法はまさに、上からの教育ではなく内発的に成長することを中心にした思想、つまりソビエト教育学とは反対の位置にあるように読める。ソ連邦が解体して10年をこえるのに私の疑問に答える教育学の論文は一本も見ていない。

(追加分)なぜ、今頃こんなことが問題かということですが、私としては不登校、引きこもりの問題にかかわるようになってから強くこのことを思うようになりました。上から教える、集団のまとまりが大切、国家主義的、画一的教育、こういう教育思想の結果として、不登校、引きこもりの大量発生を感じるようになったからです。

 引きこもりの青年の生のテープ、本人達の声を直接ずいぶん聞きました。共通しているのは「本当の自分を出せない」「人にあわせているだけで苦しい」ということでした。

 こういう子ども達の困難を解決する試みはいろいろありますが、きのくに学園や自由の森学園などは、その一つのこころみのようであり、またデューイの教育思想を土台としているようです。

 しかし、デューイの教育思想を否定したのは「民主」教育であり、一度もその自己批判はないのです。そうするとこの子ども達の困難を解決する教育実践はどうなるのでしょう。教育学は何よりも現代の子ども達の困難を解決するために研究されるべきなのに、なぜデューイの教育思想を否定したのは誤りだったということにならないのでしょう。何のための「民主」教育なのでしょう。

 このようなテーマをこの「討論の広場」でとりあげていきたい。

参考:このテーマ以外に千田が力をいれている分野として「障害児医療」の分野があります。(高橋)(04/7/24)