秋 元 健 治 (日本女子大学准教授)著

むつ小川原開発の経済分析
――「巨大開発」と核燃サイクル事業――

A5判上製268頁 2800円 2003年 発売中

 

 1960年代末から「巨大開発」と称せられてきた青森県上北郡六ヶ所村を中心とするむつ小川原開発計画は,その実施主体や責任が不明確なままに進行し,その過程で地域住民の生活基盤や伝統的共同体の破壊など,深刻な問題を発生させてきた。そして1985年4月,頓挫したこの開発計画の継続と,巨額の負債を抱えた第三セクターむつ小川原開発魔フ救済策として,危険な核燃サイクル施設を受け入れることになった。現在,六ヶ所村では大規模な再処理工場の建設が進められ,すでに操業を開始した核廃棄物受け入れ施設には海外から返還高レベル放射性廃棄物,国内原発から低レベル放射性廃棄物の搬入が続いている。さらに核燃サイクル施設の中核である再処理工場燃料プールには,使用済み核燃料の搬入も開始された。またITER(国際熱核融合炉),MOX(プルトニウム・ウラン混合酸化物)燃料加工工場など他の原子力関連施設の六ヶ所村への誘致が具体化しつつある。
 むつ小川原開発は,当初,国土政策における産業立地の観点からの石油関連産業中心の大規模臨海工業地帯建設であったし,経済の停滞する地域では工業化による所得向上と出稼ぎ解消に夢をかけての選択だった。そうした地域開発計画の方法の是非はともかくとして,現在の六ヶ所村は当初の構想とは非常に異なる状況であることは誰しもが認めることであろう。これまでの30年余にわたる開発計画の経緯が検証され,地域開発は何のために,また誰のためになされるべきかが問われなければならない。また核燃サイクル施設を中心的位置付けとした1985年4月以降の開発計画が,国の原子力政策,巨大な原子力産業,独占的電力産業の動向など相互関係に規定され,それらの圧倒的な経済力と権力の前に地域住民,あるいはその代表であるべき自治体の自律性が著しく損なわれている実態が解明されねばならない。

本稿は,以下のように構成した。最初に「第1章 開発計画・核燃サイクルの経緯」で今日まで30余年にわたるむつ小川原開発計画の経緯を簡潔に紹介する。ここでは同開発計画に核燃サイクル施設立地が決定される1985年4月を重要な分岐点にそれ以前,それ以降に分けて整理した。「第2章 開発計画・核燃サイクルと経済界」では,開発計画初期にその企画・立案に積極的に活動した経済界の動向などを述べる。そして次に過去,最も開発計画・核燃サイクルの継続に硬直的姿勢の青森県,また開発計画・核燃サイクルの現場である六ヶ所村が,政策的,財政面で開発計画・核燃サイクルにいかに関わりどのような影響を受けたかを「第3章 開発計画・核燃サイクルと青森県」,「第4章 開発計画・核燃サイクルと六ヶ所村」で整理する。むつ小川原開発計画・核燃サイクル事業が地域経済に及ぼした影響に関しては,六ヶ所村経済を中心に青森県のそれとも比較しつつ地域産業を農業・漁業・建設業の3分野に分けて歴史的展開にもふれながら整理,検討した。それらが「第5章 開発計画・核燃サイクルと地域農業」「第6章 開発計画・核燃サイクルと地域漁業」「第7章 開発計画・核燃サイクルと地域建設業」である。「第8章 開発計画・核燃サイクルと住民生活」では,地域住民の所得や雇用など生活面での影響と地域経済循環に言及している。そして1985年4月以降の開発計画の中心となった核燃料サイクル事業に関して,「第9章 原子力の動向と核燃サイクル事業」において,日本の原子力政策の推移を背景に核燃サイクル事業を担当する日本原燃
(株)を経営面から考察した。最後に「終章 開発計画・核燃サイクルの本質」では,本稿全体を通じて整理した地域経済構造の変質,損益関係をもとに,今日まで過去30余年に及ぶむつ小川原開発計画・核燃サイクル事業が,初期の構想から逸脱しながらも継続される要因に言及し,その利潤獲得機会としての機能ならびにそれが引き起こす弊害について言及した。

目 次


序 章
第1章  開発計画・核燃サイクルの経緯  
  第1節  核燃サイクル事業導入以前
  第2節  核燃サイクル事業導入以降

第2章 開発計画・核燃サイクルと経済界  
  第1節  経済界の構想 
    (1)「陸奥湾・小川原湖開発」構想 
    (2)「むつ小川原開発」に縮小 
  第2節 開発用地の買収 
    (1) 用地買収方式 
    (2) 土地投機 
  第3節 むつ小川原開発(株)と経済界 
    (1) 第三セクターむつ小川原開発(株)の設立 
    (2) むつ小川原開発(株)の破綻と新会社設立 
  第4節 小 括 
    (1) 経済界とむつ小川原開発計画 
    (2) 個別企業とむつ小川原開発計画 

第3章 開発計画・核燃サイクルと青森県  
  第1節 青森県のむつ小川原開発関連事業
    (1) 住民対策事業
    (2) むつ小川原港整備事業
    (3) 小川原湖総合開発事業
    (4)「核燃サイクル関連事業」
  第2節 第三セクターの破綻と開発事業
    (1) むつ小川原開発(株)の設立と事業内容
    (2) むつ小川原開発(株)の破綻
  第3節 青森県財政・経済とむつ小川原開発
    (1) 青森県経済の特性
    (2) 青森県財政の特性
  第4節 小 括
    (1) むつ小川原開発関連事業と第三セクター
    (2) むつ小川原開発計画を推進する青森県の経済構造

第4章 開発計画・核燃サイクルと六ヶ所村  
  第1節 六ヶ所村財政の概要
    (1) 一般会計歳入の推移
    (2) 一般会計歳入の特性
  第2節 電源三法交付金
    (1) 電源三法交付金制度
    (2) 地域に交付された電源三法交付金    
    (3) 電源三法交付金の使途
    (4) 電源三法交付金の意味
  第3節 核燃サイクル施設からの固定資産税
    (1) 核燃サイクル施設関連固定資産税
    (2) 核燃サイクル施設関連固定資産税の推移
  第4節 六ヶ所村財政と核燃サイクル施設の関係
    (1) 電源三法交付金と核燃サイクル施設からの固定資産税収 
    (2) 一般会計歳入における核燃サイクル施設関連の歳入 
  第5節 小 括    
    (1) 核燃サイクル関連歳入の問題点
    (2) 六ヶ所村財政の高い依存性

第5章 開発計画・核燃サイクルと地域農業
  第1節 六ヶ所村の農業生産
    (1) 生産と所得
    (2) 稲作
    (3) 酪農

  第2節 戦後開拓集落の誕生と盛衰     
    (1) 緊急開拓期から緊急開拓改訂期(1945〜55年)
    (2) 開拓経営安定対策期から離農対策期(1956〜68年) 
    (3) 開拓行政の終息期とむつ小川原開発(1969〜73年) 
  第3節 六ヶ所村の集落構造 
    (1) 村内集落の分類 
    (2) 村内集落の人口推移 
    (3) 村内集落の農業 
  第4節 開発計画と六ヶ所村農業 
    (1) 農地と農業者の喪失 
    (2) 消滅集落の農業経営の可能性 
  第5節 小 括 
    (1) 六ヶ所村農業の特性 
    (2) むつ小川原開発計画による六ヶ所村農業の変質 


第6章 開発計画・核燃サイクルと地域漁業
  第1節 地域漁業の状況 
    (1) 漁業協同組合 
    (2) 漁業生産 
    (3) 漁業経営 
    (4) 地域経済における漁業 
  第2節 むつ小川原開発計画・核燃サイクル事業 における漁業者の動向
    (1) むつ小川原港建設漁業補償問題 
    (2) 核燃サイクル海域調査問題 
  第3節 地域漁業者の動向の背景 
    (1) むつ小川原港建設漁業補償問題 
    (2) 核燃サイクル海域調査問題 
    (3) 村内漁業協同組合の意志決定 
  第4節 小 括 
    (1) 漁業者の動向を規定した経済的要因 
    (2) 漁業協同組合の意志決定の問題点 

第7章 開発計画・核燃サイクルと地域建設業
  第1節 青森県の建設業 
    (1) 県経済における建設業 
    (2) 県内建設業の経営状況 
    (3) 青森県建設業の特徴 
  第2節 「電源三法交付金建設工事」と核燃サイクル建設工事 
    (1) 「電源三法交付金建設工事」
    (2) 核燃サイクル建設工事 
    (3)「電源三法交付金建設工事」と核燃サイクル建設工事の特徴 
  第3節 六ヶ所村の建設業 
    (1) 村内建設業の経営状況 
    (2) 村内建設業の雇用状況 
    (3) 純生産額・村民所得と建設業 
  第4節 小 括 
    (1) 六ヶ所村建設業の特徴     
    (2) 建設業の視点からみた六ヶ所村経済構造

第8章 開発計画・核燃サイクルと住民生活
  第1節 地域経済構造の変化 
    (1) 純生産 
    (2) 所得の分配 
    (3) 所得の地域外流出  
  第2節  地域住民生活の変化 
    (1) 雇用と出稼ぎ
    (2) 1人当たりの村民所得
    (3) 民力指標
  第3節 小 括
    (1) 地域経済構造の変化と所得
    (2) 開発計画の住民生活への影響 

第9章 原子力の動向と核燃サイクル事業
  第1節 原子力政策と産業界 
    (1) 原子力政策 
    (2) 原子力関連産業 
    (3) 電力産業
  第2節 原子力発電の経済分析
    (1) 電源別発電単価
    (2) 総括原価方式と原子力発電
  第3節 日本原燃(株)の財務・経営
    (1) 日本原燃(株)の設立
    (2) 日本原燃(株)の資産と負債
    (3) 日本原燃(株)の経営状況
  第4節 核燃サイクル事業
    (1) ウラン濃縮事業
    (2) 放射性廃棄物の埋設・管理事業
    (3) 再処理事業
  第5節 小 括
    (1) 原子力発電の維持・推進メカニズム
    (2) 核燃サイクル事業の経済分析

終章 開発計画・核燃サイクルの本質
  第1節 地域経済 
    (1) 産業構造の変化 
    (2) 所得流出と経済循環 
  第2節 構想と誤算 
    (1) 国 
    (2) 経済界 
    (3) 青森県 
    (4) 六ヶ所村 
    (5) 電力業界 
  第3節 受益と損失 
    (1) 経済界 
    (2) 青森県 
    (3) 六ヶ所村 
    (4) 電力業界 
    (5) 国 民 
  第4節 国 策 
    (1) 公的資金の導入 
    (2) 責任不在 
  第5節 利潤獲得手段 

  図表目次 参考文献 あとがき

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