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ドレフュス事件とエミール・ゾラ
――告発  

稲葉 三千男著 (東久留米市長 東京大学名誉教授)290頁 本体1700円

四六判  ISBN4-88352-020-X C3036 \1700E

 フランス陸軍参謀本部のユダヤ人アルフレッド・ドレフュス大尉が,ドイツのスパイ容疑で逮捕され,有罪判決を受けた。その彼の無罪が確定したのは,12年後の1906年7月である。今なぜドレフュス事件なのか。そして文豪エミール・ゾラはなぜドレフュスの無罪のために戦ったのか。

エミール・ゾラ「私は告発する」

 ずいぶん長々と書いて参りました。大統領閣下,そろそろ結論を述べさせていただきます。デュ・パチ・ド・クラン中佐を,私は告発します。意図してではないにしろ―せめてそう望みますが―,悪魔の仕事師として司法の誤りを製作・演出したのに加えて,その後の3年間自らの不吉な業績を,極めて罪深い陰謀で隠蔽したからです。メルシェ将軍を私は告発します。おそらく精神の弱さのせいで,今世紀最大の不正行為の共犯者になったからです。ビヨ将軍を,私は告発します。ドレフュス無実の証拠を幾つか入手しながら,危機に直面した参謀本部を救うため,また政治目的のため証拠を握りつぶして,人間性を冒涜し,法廷を侮辱する罪を犯したからです……。陸軍省を,私は告発します。世論を惑わすため,および自分らの間違いを隠蔽するため,新聞,とりわけ《エクレール》紙と《エコー・ド・パリ》紙を用いて不愉快きわまるキャンペーンを実施したからです……こういう告発をしたら,1881年新聞法の第30条と第31条に規定されている名誉毀損罪に問われることを知らないわけではありません。彼らには,恨みも憎しみももっていません。私をしていわしむれば彼らが,社会における不法行為の本質であり,根源だと言うに過ぎません。したがって,私が今ここで実行している(告発という)行為も,(閉じ込められていた)真実と正義が世間に堂々と姿をあらわすのを促進するための非常手段というに過ぎません。私が問題にしているのは,耐えきれないほど受難しながらも幸福への権利を持っている人類の名において,闇に光をそそぎたいという,ただそれだけのことです。情熱を傾けた私の抗議は,私の魂の叫びにほかなりません。したがって,何としても私を重罪裁判所に召還し,白日のもとで,審理がなされるようにしてください!待ち望んでいます。大統領閣下,深甚な敬意をあらわします。

関連書
目 次
『フランスへの手紙』

ベルナール・ラザール

エステラジーの素性

エステラジー裁判

「私は告発する」の発表事情

「私は告発する」の本文

「私は告発する」の分析

「私は告発する」の反響

「私は告発する」とゾラの身辺

あとがき

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